日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督(58)が、混乱に陥った。神戸合宿3日目の5日は、完全非公開にした実戦練習で3-4-3のシステムを確認。だが理解度は低く、うまく機能しなかった。選手からは「監督がシステムに対する手応えをつかめていない」と指摘される始末。指揮官が自身の代名詞とも呼ばれるシステムに執着するあまり、日本代表が不安定な状況に追い込まれる危険性すら出てきた。

 激しい雨音に交じって、選手の声が響いてくる。スタジアムの門をブルーシートで覆い、至る所に警備員を配置してまで行った非公開調整。実戦練習で確認した3-4-3のシステムは、うまく機能しなかった。激しく指示を出す選手らの声は、日本が混乱に陥る予兆にも感じられた。練習後、主力選手が漏らしたひと言が、重くのしかかった。

 「監督も3-4-3のシステムに対して、しっかりとした手応えをつかみ切れていない。いろいろと試したいのだろうけれど…」

 なぜ、そこまでシステムに執着するのか。セリエA時代から指揮官の代名詞と呼ばれるものだが、現在は3-4-3を採用するクラブは少ない。選手が適応するのに時間がかかるのも自然な流れだ。この日の練習では、満足な展開にならないと選手をひっきりなしに代えたという。パズルのピースが合うのを確かめるかのように、選手を入れては代えた。だが結局、1枚の絵を完成させることはできなかった。一層、不安をかきたてる結果につながり、こう漏らした選手もいた。

 「ごちゃまぜでした。どういう形で(ベトナム戦を)やるのか分からない。前半と後半とで、選手を取っ換えるのかも知れない」

 ザッケローニ監督は6月のキリン杯でも3バックを採用し、2試合とも無得点の引き分けに終わった。適応力に確かな問題が噴出したことで、指揮官は「良くなってきてはいるが、今の時点ではオプションのひとつ。このシステムは別のところに置いておいて、基本は4-2-3-1にする」と語っている。あれから4カ月。本田や清武ら攻撃陣に離脱者が続出した現状があるとはいえ、不安定なシステムに再び執着すれば、混乱に陥ってしまう。

 11日のW杯予選で対戦するタジキスタンは格下とはいえ、簡単に勝てる相手でもない。不安を抱えたまま臨めば、足をすくわれる危険性もある。MF遠藤は「うまくいくこともあれば、いかないこともある。練習なり試合で修正していくことも大事」。MF長谷部も「日本人は頭で考えすぎてしまうこともある。実戦で試して、確かなものにしたい」。直面した課題を乗り越えることができるのか-。ザックジャパンが、初めて困難に直面した。【益子浩一】