危機感も責任感もない。危機管理能力も欠く。日本スポーツ界をけん引する日本サッカー協会の現状だろう。日本代表のハビエル・アギーレ監督(56)が八百長疑惑で告発されるという異常事態が発生している中で、その対応は全てにおいて後手後手に回っている。

 しばしば、アギーレ監督の招聘(しょうへい)に動いた原専務理事、霜田強化担当技術委員長の「任命責任」が話題に挙がっている。だが、それはあくまで結果論。今、本当に必要なのは責任を持ち、現状に対応する能力に他ならないが、それが決定的に欠けていると言わざるを得ない。

 初手から意識の低さを露呈していた。9月にスペイン紙でアギーレ監督の絡む八百長疑惑が報道された直後、霜田強化担当技術委員長が口にした言葉がある。「報道されただけで、アギーレ監督に『あなたがやりましたか?』と聞くのも失礼でしょう」。

 日本協会の収入はスポンサー料、チケットやグッズの収入、そして子供から大人までの選手、指導者らが払う登録料が主になっている。特に登録料は子供も払うサッカー界の「税金」だ。その財源から高額の給与を支払っている代表監督に疑惑がかかった時点で、やるべきことはあった。

 「失礼でしょう」というが、その言葉自体がスポンサーや登録者に対して失礼だろう。スペインでの報道が勢いを増したころから、ようやく顧問弁護士契約を結んでいるスペイン協会ビジャル会長の息子と連絡を取り合ったが、基本情報は現地報道ベース。日本協会の法務委員長を務める三好豊弁護士もスポーツ界の紛争については「本職」ではない状況だった。

 元来、日本協会は外国人監督に物を言えない体質が強い。「来てもらっている」というリスペクトの感覚が強く、言いなりになるケースが多い。「現場第一」という言葉は響きは良いが、本来は日本協会が「雇い主」。今回の八百長疑惑においても、初手からプロとして、雇用主として強く追求する姿勢が必要だった。

 4日、アギーレ監督に事情聴取を行った。その時点でスペイン国内の検察の動きや告発された後の流れについても伝えられた。ただ、この情報はアギーレ監督の顧問弁護士の話を同監督から「また聞き」したもの。「八百長の事実はない」と結論づけた根拠も、指揮官の主張のみ。三好弁護士は「必要とあればアギーレ監督の顧問弁護士とも直接話をする」と説明したが、いつ告発されてもおかしくない状況なら、即座に直接情報交換をすべきだ。

 4日の事情聴取後の会見にも、告発された翌日の16日の会見にも大仁会長、原専務理事らの姿はなかった。特に16日に関しては、日本協会内部に「会長が話した方がいい」という意見がありながら、大仁会長は「広報に情報を集約することにしているから」として拒否したという。避けること、隠すことは最善の策とは言えないはずだ。

 八百長の事実の有無の確認、続投なのか解雇なのか、それも重要だ。ただ、ここで露呈されたのは日本協会の体質そのもの。川淵三郎最高顧問のような絶対的なリーダーもいない。毅然(きぜん)とした態度もなければ、先を見すえた対応もできない。将来に向けた立派な目標を掲げる前に、足元を見つめ直す必要がある。【菅家大輔】<八百長疑惑経過>

 ▼9月27日

 八百長疑惑でアギーレ監督が事情聴取を受けることになったとスペイン・アス紙が報じた。

 ▼10月1日

 日本代表のメンバー発表会見にアギーレ監督が出席。「私も報道で知った。このことについて心配はしていない」と話す。

 ▼同6日

 元サラゴサFWウチェ、元レバンテFWウェリントンが裁判所に出廷し、関与を否定。

 ▼同7日

 アギーレ監督が証人として裁判に招聘(しょうへい)される可能性があるとマルカ紙が報じた。

 ▼11月28日

 スペイン検察当局が、12月2日までに監督を含む関係者33人についての報告書を、バレンシア裁判所に提出する方針だとマルカ紙が報じた。

 ▼12月4日

 欧州視察を終えたアギーレ監督が再来日。都内で日本協会の法務委員長を務める三好豊弁護士らから約2時間の聴取を受けて潔白を主張した。

 ▼同10日

 アス紙は、スペイン検察当局が、アギーレ監督らを、13日までにバレンシア裁判所に告発する見通しだと報じた。

 ▼同15日

 スペイン検察当局は、八百長の嫌疑がかけられた41人をバレンシア裁判所に告発した。