開催国ロシアが開幕戦で驚きの5発大勝から始まった今大会。前回王者ドイツ、FIFAランク8位ポーランドのまさかの1次リーグ敗退。西野ジャパンの大健闘と、8強を目前にして敗れた歴史に残ったベルギーとの死闘。ロナウドの欧州王者ポルトガル、メッシのアルゼンチンは決勝トーナメント1回戦で姿を消し、ネイマールのブラジルも準々決勝でベルギーの悪魔のカウンターの前に沈んだ。逆に若手イングランドが躍進の4強、小国クロアチアはチーム力で初の決勝進出を果たした。そしてフランスの20年ぶり2度目の世界一。波乱と感動の32日間を振り返る。


 開幕戦でロシアが開催国の意地を見せ、サウジアラビアを5-0で下した。前半12分、MFガジンスキーが記念すべき大会第1号のゴールを決めた。前半12分、MFゴロビンのクロスをファーサイドでヘディングでたたき込む。前半24分にはMFジャゴエフが負傷交代のアクシデント。だが、代わって出たMFチェリシェフが同43分に左足で追加点を挙げ、流れを渡さなかった。後半途中に投入した196センチの長身FWジュバが頭で3点目を決めるなど采配も当たった。ロスタイムにも2点を奪った。


 ポルトガルのFWクリスティアノ・ロナルド(33)が成熟を証明した。10年大会覇者のスペインとの1次リーグ屈指の好カードで、史上4人目の4大会連続得点にとどまらず、大会最年長でのハットトリックを達成。大会としても、自身としても51度目の3得点には、33歳の真骨頂が詰まっていた。試合は3-3で引き分けたが、省エネ+ずる賢さを兼ねる絶対的エースが、唯一獲得していない冠へけん引する。


 日本(FIFAランク61位)が、初戦で格上コロンビア(同16位)から金星を挙げた。先制点は日本の10番、MF香川真司(29=ドルトムント)。前半6分、自ら獲得したPKを右足でゴール右に沈めた。前回大会で1-4の大敗を喫した相手に2-1でリベンジ。香川はW杯で先発し、得点した10番は勝てないジンクスを打ち破った。


 決勝点はFW大迫勇也(28=ブレーメン)が決めた。後半28分、MF本田からの左CKに頭で合わせ、右ポストに当ててネットを揺らした。記念すべき自身のW杯初ゴールは、値千金の1発となった。高校時代についた〝ハンパない〟の枕ことばにたがわない勝負強さを示した。


 初戦で勝ち点を奪った過去2大会ともに1次リーグを突破しており、2大会ぶりの16強へ最高の発進。日本は24日(日本時間25日)の第2戦で同率1位のセネガルと対戦する。


 登録メンバーが1人少ない22人のクロアチアが強国アルゼンチンを破り、20年ぶりの1次リーグ突破を決めた。後半に一挙3得点。35分にはモドリッチが鮮やかなミドルシュートで2点目を入れ大勢を決めた。16日のナイジェリア戦で背中の痛みを訴えて途中出場を拒否したFWのN・カリニッチが強制帰国させられるトラブルに見舞われたが、それが逆にチームの結束力を高めることになり快勝。モドリッチは「地に足を着けて、また次の試合に向けて準備したい」と話していた。


 イングランドが、FWケーンのハットトリックなどで今大会最多の6得点を挙げ、2連勝で1次リーグ突破を決めた。ケーンは前半22分と同ロスタイムにPKを決めると、後半17分にはMFロフタスチークのシュートが足に当たり6点目を挙げた。同国のハットトリックは86年大会のFWリネカー以来。マン・オブ・ザ・マッチにも選ばれ「W杯でハットトリックはなかなかできるものじゃない。誇りに思う」と喜んだ。これで今大会通算5得点で、試合終了時点で暫定ながら得点ランクトップに立った。


 “持ってる”勝負師、西野朗監督(63)率いる日本が、28日の1次リーグ最終戦ポーランド戦で2大会ぶりの決勝トーナメント進出を目指す。24日の第2戦も数々の強運伝説を持つ指揮官の采配、起用がさえ渡り、セネガルと2-2で引き分け、1勝1分けとした。直後にコロンビアに敗れたポーランドの敗退が決定。最終戦は引き分け以上なら他の試合結果にかかわらず、1次リーグを突破する。


 “終わった”ポーランドを侮るべからず-。H組のFIFAランク最上位の8位ポーランドは、コロンビアに0-3で敗れ、2連敗で1次リーグ敗退が決まったが、過去のW杯では敗退後の試合で2戦2勝と意外な強さを発揮している。ポーランド広報文化センターによると「最後に何とかする」国民性という。決勝トーナメント進出をかけて28日に同国と対戦する日本は、過去の対戦成績では2戦2勝と分が良いが、油断は禁物だ。


 ム〜チョ、ハンパナイッテ。前回大会準優勝のアルゼンチンFWリオネル・メッシ(31)が、超絶トラップで今大会初ゴールを決めた。勝ち点3が絶対条件のナイジェリア戦で前半14分に先制弾。今大会通算100得点目となる一撃で2-1の勝利に貢献した。W杯で10代、20代、30代のすべてで得点したのは史上初。D組を2位で突破して、30日の決勝トーナメント1回戦でフランスと激突する。


 14年大会覇者ドイツが「負のジンクス」の餌食となった。韓国との1次リーグ最終戦で0-2で敗れた。同組のスウェーデンもメキシコに3-0で快勝し、19度目の出場で初めて1次リーグ敗退が決まった。第1戦でメキシコに0-1で敗戦。前回優勝国が初戦で敗れた場合は、32カ国制となった98年大会以降、3カ国全てが16強入りを逃す不吉なデータがあったが、前例を覆すことはできなかった。


 西野ジャパンがフェアプレー突破だ! 日本(FIFAランク61位)が1次リーグ最終戦でポーランド(同8位)に0-1で敗れたが、2大会ぶり3度目の決勝トーナメント(T)進出を決めた。1勝1分け1敗で勝ち点4から伸ばせなかったが、勝ち点で並んだセネガルを順位決定規定のフェアプレーポイント差で上回り、同組2位で1次リーグを突破した。ベスト16による決勝T1回戦は7月2日(日本時間3日)にイングランド(同12位)かベルギー(同3位)と対戦し、過去最高のベスト8を目指す。


 決勝トーナメント1回戦屈指の好カード、フランス-アルゼンチン戦で、フランスの19歳FWエムバペ(パリサンジェルマン)が衝撃の2得点をマークした。W杯で10代の1試合複数得点は58年スウェーデン大会のペレ(ブラジル)以来60年ぶり。沈黙したメッシの光が陰りつつある中で、エムバペが放つ閃光(せんこう)が世界のサッカーを明るく照らした。


 ウルグアイが、31歳FWコンビのW杯史上最長“87メートルパス交換”でポルトガルを撃破した。前半7分。右サイドでボールを受けたFWカバニが、左サイドに走り込んだFWスアレスへ約61メートルのロングパス。スアレスはそのボールを胸トラップし、ペナルティーエリアに向かってドリブル。スアレスはペナルティーエリア左角から、ゴール右前に入ったカバニへ約26メートルの高速クロス。カバニが頭でネットを揺らした。


 1-1で迎えた後半17分には、MFベンタンクールのパスを受けたカバニが約13メートルのミドル弾で2点目を決めた。この2得点でカバニは自身の持つウルグアイ史上最年長ゴールを更新した。勝ち越し弾から12分後、左ふくらはぎを痛め、自ら交代を要求しピッチを去った。


 「最弱開催国」が史上最大の下克上を果たした。ロシアが1-1からのPK戦の末に、4-3で10年覇者スペインを撃破した。FIFAランクでは70位と10位。決勝トーナメントで「60差」は過去最大の番狂わせだった。結果、ロシアが入るブロックで決勝進出経験チームはイングランドとスウェーデンのみも、どちらも半世紀以上前の記録…。新鮮な顔ぶれを「演出」する形となったロシアだが、W杯の「法則」にならえば優勝も夢ではない⁉


 歴史を塗り替えることはできなかった。日本(FIFAランク61位)が決勝トーナメント1回戦でベルギー(同3位)に2-3と惜敗した。後半3分、MF原口元気(27=ハノーバー)が右足で先制ゴールし、同7分にMF乾貴士(30=ベティス)がペナルティーエリア外からのミドルシュートで追加点を挙げた。だが、その後連続失点で同点とされると、ロスタイムにカウンターからMFシャドリに勝ち越しゴールを浴びた。02、10年に続いて3度目の挑戦となった8強の壁をまたも打ち破ることはできなかった。


 クロアチアがPK戦でデンマークを下し、初出場で3位に躍進した98年フランス大会以来、20年ぶりにベスト8入りした。1-1の延長後半11分、主将のMFモドリッチが決定的なPKを外す。大きなダメージを残してPK戦に入った。しかし、気持ちは折れない。3人目でキッカーを志願し、ど真ん中に蹴りこんだ。興奮で顔面紅潮させたダリッチ監督は言った。「失敗した後に、PK戦で蹴った彼の決意に興奮した。真の主将だ」。


 6度目の優勝を狙うブラジルがエースFWネイマール(26=パリサンジェルマン)の2得点に絡む活躍で2-0でメキシコに勝ち、7大会連続の8強進出を決めた。0―0で折り返した後半6分に先制点を決めると、43分には自身のシュートをGKがはじいたところをFWフィルミノが押し込んで突き放した。


 スウェーデンはひたすら堅い守備で守りきり、武骨なサッカーで3位に入った1994年大会以来のベスト8に進出した。アンデション監督は「われわれは良いチームであり、成功を収めている」と自信をにじませた。


 前半21分、MFフォスベリの右足シュートが相手DFに当たり、コースが変わって先制に成功。ボール保持率は36%。シュートはスイスより6本も少ない12本で、枠内は3本のみだった。先制後は不用意に攻めず、ゴール前に長身選手を集める堅守ぶり。スイスのシャキリに「美しいサッカーではなかった」とやゆされたが守り切った。


 イングランドがPK戦の呪縛から解放された。コロンビアと1-1で迎えたPK戦を4-3で制した。PK戦はこれまでW杯で3回全敗など鬼門。サウスゲート監督も、96年欧州選手権で最後のキッカーとして失敗し「戦犯」となった。その歴史もあって今回は十分に準備、研究して迎えていた。66年大会以来2度目の優勝を目指すサッカーの母国が、弾みのつく形で06年大会以来の8強入りを決めた。


 20年ぶり2度目の優勝を狙うフランスが2-0でウルグアイを下して、準優勝した06年ドイツ大会以来3大会ぶりの4強進出を決めた。攻撃の要のFWグリーズマンが1得点1アシストの活躍。過去8度の対戦で1勝しかできず、W杯では2分け1敗と相性最悪な南米の古豪を退けて、前回大会で阻まれたベスト8の壁を突破した。


 FIFAランキング3位のベルギーが同2位のブラジルを2-1で倒して、86年メキシコ大会以来32年ぶりにベスト4に進んだ。日本戦での反省を生かした布陣で挑み、日本を地獄に落とした“悪魔のカウンター”を再現した。


 オウンゴールで先制して迎えた前半31分。相手CKからのこぼれ球をFWルカクが受けた瞬間が合図だった。加速し、引きつけてから右へパス。時間はかけない。そこにいたのがデブルイネだった。ルカクは倒れ、前に味方はいない。だから迷いなく右足を強振できた。鮮やかなミドル。「美しいことを成し遂げた」。


 同監督は「ベルギーの全国の皆さんは、この男たちを誇りに思ってほしい」と呼びかけた。16年9月にスペインに敗れて以降、24戦無敗。黄金世代と称される赤い悪魔の「本気」は、王国ブラジルをも打ち破った。それは間違いなく、日本が火をつけたものだった。


 クロアチアが開催国ロシアと2-2からのPK戦を4-3で勝ち、98年フランス大会以来の4強入りを果たした。2戦連続でPK戦にもつれ込んだクロアチアは、再びGKスバシッチが勝利の立役者になった。1人目のキックを止め、流れを引き寄せた。軽く浮かしてきた球に対し、右に倒れながらも左手ではじいた。足が痛くて思い切り跳べなかった「けがの功名」だったかもしれない。

 デンマーク戦の3本と合わせ通算4本のPKを止めたのはW杯史上最多。クロアチアとしては初出場で3位となった98年以来の4強入りだ。準決勝でイングランドに勝てばボバンら「98年組」を超える。


 フランスが「シャンパンサッカー」を捨てて、決勝進出の「実」をとった。後半6分にDFウンティティのゴールで先制すると、その後は徹底した守備で、準々決勝まで大会最多14得点のベルギーの攻撃陣を完封。デシャン監督の現実的なサッカーを若い選手たちがピッチ上で体現し、1-0で逃げ切った。優勝すれば98年フランス大会以来2回目、当時主将だったデシャン監督は史上2人目の主将と監督での世界一を目指す。


 クロアチアが独立28年目で初の決勝進出を果たした。イングランドに延長後半4分、FWマリオ・マンジュキッチ(32=ユベントス)の決勝ゴールで2-1と逆転勝ち。決勝トーナメント1回戦から3試合連続の延長戦という厳しい戦いを乗り越えた。15日(日本時間16日)の決勝では、98年フランス大会準決勝で敗れたフランスと対戦する。


 ベルギーが3位決定戦でイングランドを2-0で下し、過去最高の3位に食い込んだ。前半4分にDFトーマス・ムニエ(26)が先制。W杯記録に並ぶ1大会最多10人目の得点者となり、後半37分には10番のE・アザール主将がダメを押した。守っては得点ランク1位のFWケーンを完封。日本に逆転勝ちし、勢いに乗った黄金世代が歴史を変えた。


 フランスがクロアチアを4-2で下し、自国開催だった98年大会以来2度目の優勝を遂げた。欧州勢の制覇は4大会連続となった。


 前半18分、FWグリーズマン(アトレチコ・マドリード)の右FKがFWマンジュキッチ(ユベントス)の史上初の決勝オウンゴールを誘って先制。同28分にFWペリシッチ(インテルミラノ)に左足ミドルシュートを決められて同点にされたが、同38分に今大会から導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)で獲得したPKをグリーズマンが決めて勝ち越し。後半14分にはMFポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)が左足シュートを決め、同20分にはFWエムバペ(パリサンジェルマン)が右足低い弾道の強烈なミドルシュートを突き刺してトドメを刺した。


 ゴールデンボール(最優秀選手賞)はクロアチアMFモドリッチ(32)、ゴールデンブーツ(得点王)は6ゴールのイングランドFWハリー・ケーン(24)、ゴールデングローブ(最優秀GK賞)はベルギーGKティボー・クルトワ(26)、ヤングプレーヤー賞はフランスFWキリアン・エムバペ(19)。フェアプレー賞はスペインが獲得した。