1930年(昭5)7月13日。W杯の歴史はウルグアイの首都モンテビデオで行われたフランス-メキシコの試合から始まった。

 それから88年。幾多の激戦を積み重ね、このフランス-クロアチアの決勝は記念すべきW杯通算900試合目に上った。史上最高の呼び声も高い今大会。最後を飾る激闘が始まった。

 戦前の予想に反してクロアチアが主導権を握る中、均衡を破ったのは20年ぶり2度目の優勝を狙うフランスの、得意のFKだった。前半18分、正面右からFWグリーズマンが速いボールを送る。それがクロアチアのFWマンジュキッチの頭をかすめてゴールに吸い込まれた。W杯決勝初のオウンゴール。シュートゼロ本でフランスが先制した。

 決勝トーナメントの3試合全てで延長戦に行き、フランスよりも「90分=1試合分」多くこなしてきたクロアチア。それでも、初の栄冠を目指す不屈の魂に動かされた体は、疲れを感じさせなかった。前半28分、こちらもFKから、懸命につないで最後はFWペリシッチが左足でたたき込んだ。この3試合は全て先制されてきただけに、追いかけるのはお手の物。すぐに追いついてみせた。

 すると、モスクワ市内に雷鳴がとどろき始めた。立ちこめる暗雲。ピッチも同じだった。フランスの右CKがペリシッチの左手に当たる。試合を止めて1分後、主審は今大会の象徴、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)でモニターを見に行く。そして1分後、PKは宣告された。前半38分、フランスは初めてのシュートで勝ち越した。決めたのはグリーズマン。前半、スコアが動いた。

 後半もクロアチアは流れを持っていた。だが7分、快足を見せたフランスの19歳FWエムバペのシュートをGKスバシッチが止めて反撃したときだった。観客が4人も乱入して試合が中断。好機が損なわれた。

 そこで、ブラジルのザガロ、ドイツのベッケンバウアー以来3人目の選手、監督での優勝を狙うフランスのデシャン監督が動いた。中盤の底のMFカンテに代わってMFヌゾンジを投入。すると同14分、スコアも動いた。スルーパスに、エムバペが右サイドを高速で駆け上がる。DFを追い抜いて収めると、中に送ったボールを最後はMFポグバがGKの逆を突く形で狙い澄ました左足シュート。クロアチアを突き放した。

 さらにハイライトは、その6分後だった。ペナルティーアーク手前でボールを収めたエムバペが、右足を一閃(いっせん)したのは。10代選手による決勝での得点は58年大会のブラジルFWペレ以来2人目。新時代の象徴となった男が今大会4点目でダメを押した。

 疲れがあるはずのクロアチア。さらに3点差もつけられれば、戦意を失ってもおかしくない。だが、マンジュキッチはあきらめなかった。チャージを続けてGKロリスまで戻させると、これも詰め寄って、かわそうとするロリスのボールを右足に当てて、そのままゴールに押し込んだ。2点差。その後もフランスを上回るシュートを放ち続けた。

 だが、ここが限界だった。最後まで勝ち抜いたのはレ・ブルーのフランスだった。5度のブラジル、4度のイタリアとドイツに次いで、ウルグアイとアルゼンチンに並び4位タイとなる2度目の優勝を果たした。