今大会で脚光を浴びたエムバペは、これからの選手だ。速さはすごいが、粗削りなところが目立つ。「生かされる選手」で、自分1人で何とかできる段階じゃない。まだマラドーナやメッシにはなっていない。

 スーパースターが生まれにくい状況になった。アルゼンチンやポルトガル、ドイツに次世代スターがいたか? 次のE・アザールがいたか? 見当たらない。

 いい選手は多い。サッカースクールや育成システムの充実で、マニュアル通りに指導された「養殖選手」が増え、似たような選手が多い。アフリカにもスカウトの情報網が広がり、青田買いもある。はだしでボールを蹴り、どうしたら球を取られないか、自分で工夫する子どもが減った。強烈な個性を持つ選手が少なくなったんだ。フランスの優勝メンバーも、98年組の方がずっと個性的だった。

 チームの戦い方もお国柄が乏しくなった。躍進したフランスやベルギーをはじめ、番狂わせをしたメキシコなどは「守ってカウンター、またはセットプレー」だ。データ重視で、自分らしさを出すより、相手の強いところを出させない、勝利至上主義。まるでゲームだ。攻め続けたブラジル、アルゼンチン、ドイツは不本意な結果に終わった。

 ワールドカップ(W杯)で力を発揮できなかったスターもいる。欧州クラブのシーズンが長く、疲労や故障を抱え、万全ではなかったサラーやロドリゲスらだ。一方、不発に終わったレバンドフスキは本人より周囲の問題。ポーランド代表よりバイエルン・ミュンヘンの方が人材は豊富だ。

 結局クラブの方が代表チームより上質なんだ。選手の報酬もクラブの方が格段に高い。スポンサーもW杯より欧州CLに流れる。この傾向は02年大会以降強まった。W杯を支えているのは愛国心。それもチームの多民族化で薄れてきているかもしれない。(日刊スポーツ評論家)