昨季日本男子ツアー賞金王の金庚泰(24=韓国)が3月31日に来日し、日本ゴルフツアー機構(JGTO)を訪れて、東日本大震災の復興義援金1000万円を小泉会長に手渡した。念願のマスターズ(7日開幕=米ジョージア州オーガスタ)直前のため、福島第1原発事故の影響を受けている日本に入らず、韓国や米国からの振り込みを勧める声もあった。だが日本に強い恩義を感じる本人が来日にこだわった。

 夢の大舞台への準備よりも、まずは第2の故郷に救いの手をさしのべることを優先した。放射性物質が混じると危ぶまれる雨雲の下の羽田空港。午前11時に韓国から到着した金庚泰は、溜池山王のJGTOへと急行した。「心配だったので、もっと早く来たかった。小さなころからの夢だったマスターズも大事だけど、今は、ここに来ることが優先すべきこと」。息も整える間もなく、まずは手にした目録を小泉会長に手渡した。

 来日にこだわった。当然のことだが、福島第1原発問題が落ち着かない日本行きを素直に勧めるものは、諸外国には誰もいない。金庚泰も「正直韓国では、放射線が危ないと言われた」という。それでも「メディアでは危険な側面だけが取り上げられているかもしれない。日本でサポートしてくれている人たちに聞いても、普通の生活をしていると聞いたので、大丈夫だと考えた。この数年で日本で受けた恩は大きい。だから直接返したかった」。3日に米国に出発する直前の多忙を縫った、滞在わずか10時間の強行軍だった。

 小泉会長は「感謝、感激、感動」と顔を紅潮させた。金庚泰からは震災わずか3日後に、選手では真っ先の義援金の申し出を受けた。心を打たれた同会長とスタッフは、義援金を手渡しするだけで人目につかずに帰ろうという考えの本人には内緒で、報道陣を招いての会見をセッティングした。

 金庚泰は「被災地のことを考えればほんの少しの足しにしかならない」と首を振った。だが風評を恐れず、日本人と同じように日本を思う気持ちは、被災地にも届くはずだ。【塩畑大輔】