<男子ゴルフ:日本プロ日清カップ>◇最終日◇15日◇兵庫・小野東洋GC(7158ヤード、パー71)◇賞金総額1億5000万円(優勝3000万円)

 プロ16年目の河井博大(39=フリー)が、国内メジャーで涙のツアー初優勝を飾った。首位タイスタートの最終日、■相文(24=韓国)との競り合いの中、神懸かったパットを連発。4バーディー、1ボギーの68で通算9アンダーまでスコアを伸ばし、2位以下を2打差で振り切った。2度のシード落ちを経験。一時はゴルフをやめようと思った田中秀道(40)の愛弟子が、大輪の花を咲かせた。

 プロ16年目のウイニングパットだ。河井はうつむいて、両手を2度突き上げた。最終18番グリーンサイドで「師匠」は待っていた。泣きながら抱きついた。「ようやったな…」。叱咤(しった)され、励まされ、慕い続けた田中秀道の震える声が、耳元で聞こえた。

 やめなくてよかった。01年に続き、2度目のシード落ちとなった07年秋に、最終QTで予選落ち。田中にメールを打った。「もう、やめようと思います」。広島で精肉業を営む父憲三さん(65)に「焼き肉店をしようか」と相談もした。留守番電話に田中のメッセージがあった。「やめるな。オレの面倒を見ると思って続けろ」。

 瀬戸内高の1年先輩だ。プロ2年目の97年開幕戦から気に掛けてもらった。兵庫にいた99年に「オレが面倒を見てやる。名古屋に来い」と誘ってくれた。もう1度頑張ろうと決めた。

 首位スタートの最終日、スタイルを貫いた。「歩きながら打つ」。ターゲットを定めたら、アバウトでもアドレスに入り、打つ。1ミリも止まらない。かつてグリップ、ボール位置、フェースの向き…と、チェックポイントを確認し過ぎて、潜在能力が出せなかった悪癖を直すため、田中にたたき込まれたルーティンだ。

 信念がビッグプレーを生む。■と並んで迎えた15番は7メートルをねじ込むパーセーブ。17番はグリーン手前花道から、パターで10メートルを放り込むバーディーで単独首位に立った。「本当に長かった。シードを落として、くじけそうなことがいっぱいあって…。最後にパットを決めた時は『この瞬間のために、やってきたんだ』と思えました」。

 ゴルフをやってよかった。甲子園を夢見て、高校野球の名門・広陵を目指していた中学3年の夏、少年野球チームが不祥事で解散。グレかけた自分に「ゴルフでもせんか」とクラブをくれた父に感謝したい。

 「もっともっと自分を強くしたい。一流のプロゴルファーになりたい」。優勝で来季からの5年シードを手にしても、河井は変わらない。166センチの小兵で、故障と闘いながら日本オープンなど10勝している「師匠」のような“折れない心”を求め、歩きながら打ち続ける。【加藤裕一】※■はナベブタに裴のナベブタを取る