<フィギュアスケート:GPシリーズ第6戦・NHK杯>◇第2日◇29日◇大阪・なみはやドーム◇男子フリー

 ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19=ANA)がボロボロになりながら、GPシリーズの上位6人で争うファイナル(12月11日開幕、スペイン・バルセロナ)に滑り込んだ。ショートプログラム(SP)5位からのフリーは、4回転ジャンプで転倒し、151・79点の3位で合計229・80点。3週間前の中国杯での負傷が完治しない体で、なんとか2連覇を狙う舞台へつなげた。

 「終わった」。羽生は花束が舞う演技後のリンクでつぶやいた。「いろいろな意味ですが、絶望的に終わったですね」。到底満足できる出来ではない。ファイナル出場を逃したと思った意味での「終わった」。そして、苦しい試合が「終わった」。さまざまな気持ちが4文字に凝縮した。

 開始19秒、冒頭の4回転サルコーはタイミングがずれて2回転に終わった。39秒、続く4回転トーループは3回転になり、さらに転倒までした。終盤で3回転半が1回転半になるなど、ミス続き。故障の影響を否定し、「そうじゃなくて、これが僕の実力です」と悔しさを如実にした。ただ、見た目には分からないが、衣装の下はテーピングだらけだった。

 中国杯で着た衣装の血は、洗っても落ちなかった。この日、何とか新調の衣装を間に合わせたが、体は新しくできるはずもない。全治2、3週間と診断された全身5カ所のケガは癒えず、両足首、太もも、腹部まで、テープで補強しなければ滑れない状態だった。

 男子選手では出色の柔軟性に富んだ演技に制限はあったはずだ。さらに、深刻な太ももだけでなく、足首も以前に剥離骨折した箇所の痛みが再発し、頭部にはたんこぶができたまま。「実力」以外の部分で影響は確かにあっただろう。

 大会に出たことを問われると「正しかった。結果がどうであれ、こうやって滑り切れた。決して後ろに下がってはいない」と言った。ただ、その歩みは順調とは程遠い。最後まであきらめずに滑りきったことで、執念でファイナルの切符はつかんだが、道は険しい。「トレーニングで立て直したい」と話したが、テーピングだらけの体では練習量も質も抑えざるを得ない。

 もともと、今季は慢性的な腰痛が悪化し満足な練習を積めなかった。そこに中国杯での衝突が重なった。さらなる進化を目指しながら、うまくいかない。大会を終えて「いろいろな弱さがみえた。どこから手を付けていいのかわからない」と吐露もした。

 体を酷使しながら、2連覇がかかる舞台への切符をつかんだ意味は大きい。今大会を滑った反動はないのか、どれだけの休養期間が必要になるのか、その上で短い期間でどう調整をするのかが問われる。「越えなきゃいけない壁がある」と覚悟し、いばらの道を歩む。【阿部健吾】

 ◆羽生の進出ライン経過

 大会前は6人中3人が確定し、残り3人が順位点の合計20点で並んでいた。無良とボロノフが26点で4人目と5人目。羽生は4位となって、22点。20点を超える可能性があったアボットが5位(7点)で14点に終わったことで、羽生が6人目に滑り込んだ。