横綱朝青龍(27=高砂)が1日、力士の給与アップを訴えた。名古屋場所(13日初日、愛知県体育館)に向けての力士会が、同体育館で行われ、同会長として「我々の給与を上げてほしい」と発言。他の力士の賛同も得た。力士会が、日本相撲協会に待遇改善を要求するのは異例。世の中の動きに敏感な横綱は、この日にガソリン代、電気、ガス代などが値上げされたことを踏まえ、7年連続で給与改定を行っていない協会側の姿勢に異議を唱えた。

 土俵外で朝青龍が動いた。幕内、十両の関取衆が一堂に会する場所前恒例の力士会。司会の大関千代大海が「何かありますか?」と発するや、朝青龍が挙手して話し始めた。参加力士の証言を総合すると、こんな内容だった。

 朝青龍

 力士の給与を上げてほしい。ガソリン代も上がっているし、いろんな物価も上がっているのに、給与は変わらない。もう、少しどうにかならないか。10%ぐらい上がらないかなと思うけど、部屋から場所に入るための交通費(親方、関取には支給なし)を出すとか、してほしい。

 朝青龍会長の発言に、関取衆は「そうだ。そうだ」と拍手喝采した。夏場所千秋楽結びで取組後にらみ合って以降、朝青龍と冷戦状態が続く白鵬も、拍手こそしないもののうなずいていた。

 力士会は、力士の立場から日本相撲協会へ提言することを目的にした会だ。一般企業の組合的な要素もあるが、協会を運営するのは師匠も含めた理事の親方衆で、弟子の力士側から待遇改善を訴えたことは異例。また、現在659人在籍する力士のうち計70人の関取衆は、高額な給与のほか、給金、後援者からの祝儀、幕内力士は懸賞金も得られる。朝青龍は手当を含め、協会からだけで年間約6000万円を得ている。発言の狙いは、7年連続で給与改定を行っていない協会の現状打破にあるようだ。力士会後、名古屋市内で行われた協会行事に出席した朝青龍は、発言の意図をこう説明した。

 朝青龍

 まだ、上(協会側)に(要求を)上げるわけじゃないけど、こういう状況だから提案してみたんだ。会長としての使命もある。実際、地方だと宿舎が場所まで遠くタクシー代もかかるから。

 実際に日本相撲協会は、01年に関取の給与を一律3%アップしたのを最後に、今年まで据え置いている。協会側は人気低迷などを理由に「上げる状況にない」と説明するが、決算報告書によれば08年度で約73億円の繰越金を抱えている。

 朝青龍発言を受け、北の湖理事長は硬い表情で「何も聞いていないし、今、言える問題じゃない。すべては理事会で決めることだから」と話すにとどめた。昨年は相次ぐ不祥事で揺れた協会で、朝青龍も当事者だった。それが「災い転じて」大相撲があらためて注目され、人気が上向きになったのも事実。規定から給与改定の協議は例年11月の理事会で行われる。朝青龍を中心にした力士側と協会側の攻防は、今後も続きそうだ。【柳田通斉】