大相撲の時津風部屋力士暴行死事件で、序ノ口力士の時太山(当時17=本名斉藤俊さん)を暴行し、兄弟子に暴行を指示したなどとして傷害致死罪に問われた元親方山本順一被告(58)の初公判が12日、名古屋地裁で開かれた。同被告は斉藤さんをビール瓶で殴ったことは認めたが、暴行指示はなかったなどとし、起訴事実を否認した。弁護人は業務上過失致死罪の成立を主張。弟子に罪をおっつける元師匠の言い分が通るか否か、司法の場で解明が始まった。
山本被告は猫背気味で、刑務官に挟まれて入廷した。手錠を外されると、傍聴席最前列に座る斉藤さんの父正人さんに小さくあいさつした。表情は1年に及ぶ拘置生活でやややつれていたが、検察側が読み上げた起訴状には、以前と変わらぬ早口で反論した。
山本被告
暴行を指示してはいません。ぶつかりげいこは指示しましたが、通常のけいこで、制裁目的ではありません。ホースで俊君に放水したのも、気付けのためで暴行のためではありません。
検察側は冒頭陳述で、愛知県犬山市の部屋の宿舎から斉藤さんが逃げたことに山本被告が立腹し、自ら斉藤さんをビール瓶で殴打。「お前らも教えてやれ」と兄弟子らに暴行と鉄砲柱に縛り付けることを指示をしたと指摘した。さらに同被告は、斉藤さんが優柔不断な態度を取り続けたと憤慨。翌日には罰として過酷なけいこである「ぶつかりげいこ」も指示したと述べた。同けいこは約30分に及び、斉藤さんの死因につながったと主張している。
しかし、山本被告側はこれに真っ向から反論した。弁護人は冒頭陳述で、傷害致死罪ではなく、業務上過失致死罪の適用が妥当だと主張。その上で検察側と相反する主張を展開した。「暴行は元親方の指示ではなく、兄弟子独自の判断で行ったもの。元親方は暴行の事実も知らなかった。ぶつかりげいこには痛めつける意図はなく、『力士の力量、技量の向上』という正当性があった。このけいこは力を抜けば長くかかるもの。死因は、ぶつかりげいこに特定はできない」。
さらに弁護人は「元親方は、普段から暴力による指導は認めていなかった」などと訴えた。しかし、証人尋問で、ぶつかりげいこを目撃した部屋の後援会員が「通常のけいこが終わった後のぶつかりげいこで、(斉藤さんへの)罰かなと思った」と証言。同会員は、元親方が自ら木の棒で斉藤さんの尻をたたき、元親方の前で兄弟子の1人が、弱った斉藤さんの顔を平手でたたいた状況も語った。
同地裁は昨年12月、傷害致死罪に問われた兄弟子3人の判決公判で「暴行は親方の指示」と認定している。公判は3月25日までに10回の集中審理が行われ、今月末には兄弟子3人も証言台に立つ。「弟子をかばう」ことを忘れた元親方と、罪を押しつけられた弟子との闘いから、真実は導かれるか。【柳田通斉】


