<大相撲初場所>◇14日目◇23日◇東京・両国国技館

 磋牙司が幕内をつかんだ!

 西十両筆頭の磋牙司(28=入間川)が境沢をすくい投げで下し、4場所連続の勝ち越しを決めた。十両の優勝争いトップを走っていた相手に1歩も引かず、果敢に攻めきる会心の内容だった。幕内は元大関千代大海の引退で枠が1つ空いたうえ、2人の十両陥落が確実。春場所(3月14日初日、大阪府立体育会館)では、静岡県勢として05年夏場所の片山以来となる新入幕が確実になった。

 引き締めようとしても、表情は崩れた。新入幕を確実にし、磋牙司はカメラマンに「Vサイン」を要求された。硬い。笑わない。冷やかす付け人の声に、ようやくこらえていた笑みがこぼれる。07年夏場所の潮丸(現東関親方)から遠ざかっていた幕内の土俵に、県勢力士が帰ってくる。郷土には「自分は自分のペースで頑張ります」とメッセージを送った。

 モットーの「気迫」を見せた。相手は十両で優勝を争う好調な境沢。188センチの体を生かして突き放されたが、167センチで果敢に前に出続けた。懐に飛び込み、差した左腕にこん身の力を込める。豪快なすくい投げで、1発で給金を直した。「攻めるしかないですから。集中して取ることができました」と満足した。

 序盤戦で4勝1敗。好スタートは、一方で重圧にもなった。10日目からの3連敗で星は五分に戻った。「幕下とか、十両の下でかかるプレッシャーより楽なので。これでもいろいろと経験してますから」。硬くなった体は「攻める」ことで活路を見いだした。

 昨年7月、沼津学園(現飛龍)の監督だった板垣知司さん(享年64)が急逝した。いつも笑顔で、入門後も励まし続けてくれた恩師。「3役を目標にしてますが、板垣さんには、ぜひ見てもらいたかった…。天国で見守ってくれているでしょう」。ようやく天国に吉報を届け、場所後には墓前に報告に行く予定だ。

 167センチは歴代幕内最短身力士になる。実は場所前は右肩を痛め、満足いくけいこはできなかった。それでもその事実を隠し、「場所前は、それなりのけいこができた」と言い切る。言い訳しない気持ちの強さ。体は小さい磋牙司には、幕内でも戦える人間の強さがある。【近間康隆】