<大相撲秋場所>◇初日◇11日◇東京・両国国技館

 大関日馬富士(27=伊勢ケ浜)が、綱とりへ冷や汗スタートを切った。東小結の豊ノ島(28=時津風)にもろ差しを許して防戦一方。最後は右から捨て身の掛け投げで、物言いがついた接戦を逆転で制した。白星とともに、初観戦した女優川島なお美(50)のハートもがっちりつかんだ。大関とりの2関脇、琴奨菊(27)鶴竜(26)はともに完勝。横綱白鵬(26)も白星発進した。

 日馬富士が綱渡りの勝利で、綱とりへの15日間をスタートさせた。38秒間の熱戦に、初場所以来の本場所を迎えた国技館がどよめいた。「まあ、危ないね。今日は相手の相撲だった」。支度部屋に戻っても、右上半身には土がべっとりついたまま。表情は穏やかだったが、興奮したのか少し早口になっていた。

 豊ノ島に左のど輪を外され、もろ差しを許した。右外掛けで体勢をやや立て直すと、右足を掛けた瞬間に投げ捨てた。前に1回転して起き上がり、勝利を確信してガッツポーズも飛び出した。物言いがついたが、軍配通り。「豊ノ島が先に落ちたのが見えたからね」。接戦でも、冷静に相手が見えていた。

 自身の取組前には琴欧洲、把瑠都と2大関が続けて敗れる波乱。「あれっと思った。どうしてもちょっと考えてしまった」。土俵下で心の揺れもあったが、執念の逆転勝ち。8月下旬から続く臀部(でんぶ)の痛みを抱えながらも、抜群の身体能力を発揮した。

 女優の心もわしづかみにした。向正面の土俵下では初観戦の川島なお美が大興奮。最も印象に残った力士に日馬富士を挙げた。「見る側も緊張しました~。横綱に上がってほしいですね」。この日から導入された取組内容を評価するマークシートでも、2位の好成績を獲得。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は「内容はどうあれ、白星が続くと波に乗れる」と内容より結果を評価した。

 「勇気と希望を与える相撲を取りたい」とかねて口にする。8月の青森合宿中には宮城・気仙沼を慰問。被災地にビデオメッセージも送った。東日本大震災から半年を迎えたこの日、日馬富士は「少しでもみんなが喜んでくれたら」と今後も全力投球を続けると誓った。2年前の初の綱とりは5日目までに2敗。序盤を乗り切れば、山の頂点が見えてくる。【大池和幸】