虎のドラフト1位は、マイペースに大物感たっぷりだ。26日のプロ野球ドラフト会議。4球団競合の末、阪神がアマNO・1スラッガー近大・佐藤輝明内野手(21=仁川学院)の交渉権を獲得した。「○○佐藤誕生」の瞬間を取材するために駆けつけた会見場で、世間にはなかなか届かなかった裏側まで見届けた。

矢野監督が当たりくじを引いた瞬間、佐藤輝は表情ひとつ変えずに中継画面を見つめていた。同席した野球部田中監督とガッチリ握手。会見で堂々と受け答えする表情も、淡々としていた。ネット上などでは不満顔? との臆測も飛んだが、ある言葉で納得した。

「勝負事というのは相手があって、相手はコントロールできない。しっかり自分のできることに集中して取り組め」

父博信さん(53)からの教えで、大切にしている言葉だという。柔道選手だった博信さんは日体大で古賀稔彦らと活躍し、91年講道館杯86キロ級優勝などの実績を持つアスリート。父譲りの不動心を胸に、12球団OKの姿勢で縁を待った競合抽選だった。翌日には「どこの球団に指名されてもあまりリアクションをしないというか、平常心でいこう」と、当日の心境を笑顔で振り返っていた。自分で決めることのできない結果に一喜一憂せず、自らを律したゆえの硬い表情だったと推測した。

実際、緊張の糸は次第にほぐれていった。午後5時開始のドラフト会議に始まり、会見、取材、各局のテレビ出演と大忙し。全ての対応が終わったのは、午後8時を回っていた。慣れない取材対応をこなしていくうちに、笑顔も増えていった。近大マグロをバックにした写真撮影では、カメラマンの要求に陽気なポーズで応えていた。会場を引き揚げる直前。気の知れた大学関係者らと記念写真に納まる表情は、3時間前とまるで別人のようだった。

性格は田中監督も苦笑いで心配するほどのマイペースだという。それも周りに左右されない強いハートを持ち合わせているからなのかもしれない。ただでは動じない新人離れした精神力にも注目したい。【阪神担当 奥田隼人】