日差しをさえぎるものはなく、風も通らない広島2軍本拠地・由宇球場に、似つかわしくない姿があった。3日、山口・岩国市にはグレーと黒のシックなジャージー姿の黒田博樹球団アドバイザー(48)がいた。
9時過ぎから投球練習する若手投手を指導すると、気温が上昇した11時過ぎには、サブグラウンドで自らノックバットを握った。現役時代、打撃が得意ではなかった印象が残っていただけに驚きはあった。
それぞれ一塁と三塁に就いた選手にノックを打つ…。決して回転がきれいなものではない。打球も鋭いものばかりではない。それでも1球1球、しっかりと選手を思い、丁寧に白球をたたいた。
「そこ(捕球)からしっかり(体重を)乗せて(投げて)みろ」
「そうそう。今の感覚、今の感覚を忘れるなよ」「今のはちょっと違うな。分かるか?」
「(高橋)昂也、そうだ。それだよ。腕を振る感覚、忘れてたんじゃないか?」
白球に言葉と思いを乗せているようだった。対峙(たいじ)したのは若手3投手。5月以降16試合で防御率2・01を残しながら、ここまで1軍登板なしの新人益田。高卒2年目に開幕ローテ入りしながら今季ウエスタン・リーグでも7月15日阪神戦を最後に登板から遠ざかっている高橋。そして育成選手として2年目を過ごす中村来だった。
いずれも悩める若手投手たち。ノックは何球、何十分に及んだか。立っているだけで汗だくになる、うだる暑さの中で黒田球団アドバイザーは不慣れなノックを打ち続けた。
ノックボールを手渡ししてくれるサポート役もいない。かごの中に残る球が少なくなれば、選手がより投げやすそうなきれいな球を足元から探して拾いながら、打ち続けた。
あまり聞き慣れない肩書で、どこまでチームに関わるのだろうかと思っていたら、黒田球団アドバイザーはこちらの想像をはるかに超える行動力を見せている。春季キャンプから開幕前。マツダスタジアムだけでなく、廿日市市の大野練習場や由宇。そして開幕カードを戦った神宮や解説を務めた東京ドームでもベンチで首脳陣や選手と話し込む姿がみられた。記者が由宇で目にした前日はマツダスタジアム、さらにその前日は由宇にいたと聞く。そんな姿に、新井監督もシーズン折り返し時には感謝を口にしていた。
「アドバイザーという立場でユニホームは着ていないですけど、ユニホームを着て一緒に戦ってくれているような感じ。本当に心強い」。
コーチではないし、ユニホームも着られない。聞き慣れない肩書ではあるが、チームと、そして新井監督と、ともに戦っているのだ。【広島担当 前原淳】




