今年も多くの選手たちがプロの世界を去った。第2の人生へ踏み出す彼らを特集する「さよならプロ野球」を、全12回でお届けする。

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家族との食事中に、ロッテ阿部和成投手(30)の電話が鳴った。

「5年前くらいからかな。毎年覚悟しながらやっていた。ネットを見るの好きで、毎年『よう残ってるな』と書かれてて…。正直、まだやれるんじゃないかという気持ちはもちろんありました」

13年5月、ソフトバンク戦でプロ初勝利を飾り、伊東監督(右)に祝福されるロッテ阿部
13年5月、ソフトバンク戦でプロ初勝利を飾り、伊東監督(右)に祝福されるロッテ阿部

10月3日に戦力外を通達され、同時に2軍サブマネジャーを打診された。日頃の練習態度など人柄を評価された。他球団のオファーを待つ選択肢もあったが、引退を決断。11月の秋季キャンプからマネジャー業務を始めた。「こんなにやってくれてたんだ」。何げなく食べていたベンチに置いてあるあめやガム。選手時代はそれほど意識することはなかったが、全ては誰かが用意してくれた物。裏方に回ってから、ありがたみを実感した。

ロッテ阿部の年度別成績
ロッテ阿部の年度別成績

これからは若手選手の成長を願いながら、家族への恩返しに取り組む。妻の美香(みよし)さん(35)には頭が上がらない。「本当に感謝してます。元々は生野菜が食べられなかったんですが、今は普通に食べられる。そういう体のことも気にかけてやってくれた。ただ活躍して恩返し出来なかったのは悔しい」。幼い息子2人を任せ、寝室では1人で寝かせてもらった。全ては野球のために。感謝は尽きない。

16年4月、西武戦で力投するロッテ阿部
16年4月、西武戦で力投するロッテ阿部

自身の名を分けた2人の息子、大“和”くん(5)と大“成”くん(3)にも救われた。「『やめるよ』って言ったら『パパずっと家にいるじゃん』って喜んでました。遊べると思ったのは事実だろうけど、上の子は野球をやってるし、球場にも結構見に来たから寂しさはあったと思う」。パパを気遣い、明るく振る舞ってくれた。

普段の生活サイクルは現役時代と大差ないが、オフは家族と過ごせる時間が増える。「いきなり全部は返せないから少しずつ。何かやってあげられたらなと思います」。12年分のありがとうをコツコツと返していく。【久永壮真】

19年ロッテ退団選手
19年ロッテ退団選手