父と息子、二人三脚で挑んだ夏だった。青藍泰斗(栃木)の佐々木康投手(3年)は、平均140キロを投げる右腕だ。代替大会は初戦からエンジン全開。スピンが利いた切れのある直球で、通算2試合で11回を投げ15奪三振と力投した。栃木大会は7回制で行われ、準々決勝以降の試合はなかった。県8強ながら高校野球の集大成、最後の夏を勝利で終えた。

青藍泰斗・佐々木の投球フォーム(撮影・沢田直人)
青藍泰斗・佐々木の投球フォーム(撮影・沢田直人)

昨秋の県大会決勝、文星芸大付戦で先発した。しかし、5回を持たずに降板。右足に体重が乗らず、腕の力だけで投げてしまいつかまった。継投や打線の力でチームは優勝したが「あれほど悔しい大会はない」と当時を振り返った。

優勝後、冬は休む間もなく、フォームを考え直した。まず参考にしたのは、ユーチューブ。プロからアマまで、あらゆる選手の動画を繰り返し見て学んだ。フォームを一から見直そうと憧れのオリックス山本をまねたが、思うようにいかなかった。父勝さん(55)に相談した。映像を扱う会社に勤務する勝さんは、自粛期間中にオリジナル動画を作製してくれた。「不器用な息子のためですよ」。調子が良かった時も悪かった時も投球の動画を撮りだめていた。昔と今のフォームを交互に見比べられるような編集。山本やソフトバンク千賀と、同一画面の中でスローで比較できるような編集もあった。

青藍泰斗・佐々木康(左)とオリックス山本由伸の投球フォーム比較画面
青藍泰斗・佐々木康(左)とオリックス山本由伸の投球フォーム比較画面

佐々木は動画を繰り返し見た。歩幅を狭め、地面の反発を使った新たなフォームを生み出した。自分のものにするため、ひたすら練習を行った。左手の引きや体重移動を変え、多くの人にアドバイスをもらい、今の形になった。昨秋に比べ、球の切れは増し、球速も8キロ近く上がった。新フォームは徐々に板についてきた。

代替大会の試合前、勝さんからメッセージをもらった。「頑張れよ。最後は仲間たちと思い切り楽しんでこい」。自然とリラックスができ、自己最速の145キロをマークした。コロナ禍で県の8強以降、甲子園につながる舞台はなく、悔しい思いをしたが「今後も続く野球人生では通過点」と割り切った。「試合ができただけでもありがたいです」と感謝の思いも口にした。

卒業後は進学するが、将来的にはプロを目指す。「今度は4年間かけて、体幹と体を作っていきたいですね」と次の舞台での目標を立てた。視線は既に未来を見据えている。【沢田直人】