昨季、日本野球界の最高峰と呼ばれる日本シリーズは、ソフトバンクの4連覇で幕を閉じた。独走でセ・リーグを連覇した巨人が、手も足も出ずに4連敗。同じ対戦だった2年前のシリーズから8連敗で、リーグとしては8年連続で負け続けている。シリーズ通算でもパが36勝で、初めて35勝のセに勝ち越した。交流戦の通算でも、パは1102勝966敗と大きく勝ち越している。なぜここまで、セとパの格差が広がってしまったのか? さまざまな角度から検証する。

日本シリーズ成績
日本シリーズ成績

セであれだけ強かった巨人が、ソフトバンクに手も足も出ずに4連敗した昨年の日本シリーズ。数字を見ても、巨人のチーム打率は1割3分2厘で安打総数は16と、シリーズのワースト記録を更新。記録に残る惨敗だった。

今回の連載は「なぜ、これほどまでにセとパのレベルが開いてしまったのか?」に焦点を絞る。分かりやすく分析するため、昨年のシリーズを時系列に追って整理する。

日本シリーズ2020第4戦 ソフトバンク対巨人 試合に敗れ優勝を逃した巨人原辰徳監督(左から3人目)らナインは喜ぶソフトバンクナインを悔しげに見つめる(2020年11月25日撮影)
日本シリーズ2020第4戦 ソフトバンク対巨人 試合に敗れ優勝を逃した巨人原辰徳監督(左から3人目)らナインは喜ぶソフトバンクナインを悔しげに見つめる(2020年11月25日撮影)

最初に格差が生まれたのは、シリーズの開催前だった。セはCSを開催せず、パはCSを導入。この時点で「強いパに勝つためには?」という問題意識がセには足りなかった。経緯を振り返ってみよう。

新型コロナウイルスの影響で、開幕が大幅に遅れた。5月25日に行われたNPBの12球団代表者会議で、開幕日が6月19日に決定。同15日にパだけでCSを行うことが発表された。パのCSは例年と違い、優勝チームが1勝のアドバンテージを持って2位チームと対戦。3勝を先取した方がシリーズの出場権を獲得する方式で、例年のような2位と3位の対戦はなかった。一方、セはCSを行わず、優勝チームがそのままシリーズに出場するというものだった。

セとパの順位予想を評論家に取材した時、昨季から日刊スポーツ評論家に復帰した宮本慎也氏が、印象的なコメントを残している。

宮本氏 順位予想って難しい。でも日本シリーズでセとパのどちらが勝つかは予想できますよ。パのチーム。どういうペナントになるかにもよるけど、シリーズはCSをやった方が絶対有利。ただでさえパの方が強いんだから。セもやればいいのに…惨敗にならなければいいんだけど…。

宮本氏は、本紙の日本シリーズで3戦目と4戦目の評論を担当した。ソフトバンクの優勝が決まった最終戦では、CSの有無を巨人惨敗の要因のひとつとして挙げている。結果論ではなく、開幕前から指摘していた懸案事項だった。

日本シリーズを制し場内を1周する孫正義オーナー、工藤公康監督らソフトバンクナイン(2020年11月25日撮影)
日本シリーズを制し場内を1周する孫正義オーナー、工藤公康監督らソフトバンクナイン(2020年11月25日撮影)

セがCSを行わない理由を挙げてみよう。

(1)コロナの先行き予想がつかない

(2)屋外球場を本拠地にする球団が多く、雨天中止が多い場合、日本シリーズまでに日程を消化できない可能性がある

屋外球場を本拠地にする球団は、パがロッテと楽天の2球団に対し、セは阪神、DeNA、広島、ヤクルトの4球団。確かに雨天中止の確率は2倍も高く、CSの不採用を決める理由のひとつになる。しかし、日本シリーズも交流戦もセの惨敗は続いている。セとパの実力の格差に、セ各球団が危機感を持っていれば、変えられなかったのか?

(1)消化できなかった試合をダブルヘッダーにする

(2)CSの有無はパ球団と同一条件にそろえる

かつてはそれぞれ独立していたセとパも、現在は組織が統合されている。セのCS開催が不可能なら、パも同じようにしなければ不均衡になるし、これではなんのために統一されたか疑問が残る。

試合内容を見る限り、CSを行っていたとしても、巨人はソフトバンクに勝てそうもなかった。しかしCS開催がどれだけ日本シリーズの勝敗に有利に傾くか、CSがどういう経緯で現在の方式に至っているかを振り返れば、その優位性は歴然としている。一番の問題点は、セ球団がパ球団との実力格差に危機感が希薄なことが挙げられるだろう。次回は「CS史」を振り返って検証する。(つづく)【小島信行】