往年の名投手がヤクルトに帰ってきた。伊藤智仁投手コーチ(50)は、4年ぶりに復帰した。「メンバーががらりと変わった。まず顔と名前を一致させる作業から始めないといけなかった」と冗談っぽく笑う。17年まで在籍した古巣では、ベテランが変わらぬ活躍を続けている。一方、1軍キャンプに参加している日本人選手20人の平均年齢は25・2歳。伊藤コーチの退団以降に入団した選手が12人と若手が目立つ。

7日、取材に答えるヤクルト伊藤投手コーチ
7日、取材に答えるヤクルト伊藤投手コーチ

2年連続の最下位。チーム防御率も19年4・78、20年4・61と2年連続で12球団ワースト。「投手陣の低迷が成績に直結している。少しでもレベルアップしていかないと。負けている試合ばかりを見せたくない」と再建に意気込む。特に力を入れるのは先発陣だ。リリーフには一定のめどが立っている。昨季FA権を取得しながらも、宣言せずに残留した石山をはじめ、清水や梅野、マクガフが安定した活躍を見せている。それに対し「先発の枠が足りない。若手にはチャンスがある」。高津監督がキャンプのテーマとして掲げるのは激しい競争。切磋琢磨(せっさたくま)し、若手の台頭を期待する。

指導で一番大切にするのは「ストライクを投げること」だ。単純な言葉だが、そこに投手の神髄がつまっている。いい球を投げるのではなく、打ち取ることが投手の仕事。カウントで自身を優位にさせる。どんどんコースに決めていくことを求める。そのために、ヒントを選手たちに与えた。「実績ある投手、いろんな投手からものまねすること。ピッチングをデザインして、自分がどれに合っているのか」。長く活躍を続ける投手には必ず理由がある。感じ取ることが飛躍への近道だ。

復帰1年目の今季、ファンへ勝利を届けたい。「去年は点をたくさん取られて負けた試合があった。それはなくさないと。1点を大事にする。次の1点をいかに失わないか。執念を持ってやらないと。野蛮な精神というか、諦めない姿勢を鼓舞していきたい」と真っすぐ前を見つめた。現役時代は手術を乗り越えてカムバック賞を受賞した。不屈の精神の持ち主は、強い気持ちで投手陣を鍛え直していく。【湯本勝大】

◆伊藤智仁(いとう・ともひと)1970年(昭45)10月30日、京都府生まれ。花園-三菱自動車京都を経て92年ドラフト1位でヤクルト入団。1年目に新人王。その後は3度の手術を受けるなど右肩痛に苦しみ、03年引退。通算127登板、37勝27敗25セーブ、防御率2・31。04年から2軍、08年から1軍の投手コーチ。18年にBC・富山の監督に就任。19年に楽天1軍投手チーフコーチ。21年から1軍投手コーチとしてヤクルトに復帰。185センチ、85キロ。右投げ右打ち。