昨年、都市対抗野球で11年ぶりに優勝したホンダの投手コーチ、元巨人の木村龍治氏(51)は新しい環境の下、日々学び、選手の育成に力を注いでいる。

20年11月、都市対抗の準々決勝ホンダ-西部ガス戦でホンダ木村コーチ(右)は米倉(左)と辻野にアドバイスする
20年11月、都市対抗の準々決勝ホンダ-西部ガス戦でホンダ木村コーチ(右)は米倉(左)と辻野にアドバイスする

現役12年、コーチ15年。プロ野球界で四半世紀も生きてきた木村氏は20年1月、アマチュア野球の世界に飛び込んだ。「社会人野球を見て、プロとアマチュアの違いを知りたかった」。期待に胸膨らませた練習初日、選手たちの前でこうあいさつした。「青学出身で、今回お世話になることになりました。何もできませんが都市対抗で優勝するときの輪に入れてください」。「プロ」とはひと言も口にしなかった。同じ目線で指導していきたかった。

プロ野球なら、投手の体のキレがなければ練習を怠っていたと注意できる。しかし、社会人には仕事がある。その両立の難しさを知った。約3時間のわずかな練習時間で成果を上げるため、何を目的に、どんな意識で取り組むトレーニングなのかをより明確にした。「プロでは『こういう練習をしたら球が速くなるよ』と単刀直入に話す。でも、社会人は重要性を強調し、理解をさせ細かくトレーニングさせるんです」。

投手を集め、投手・投球・投球動作の基本をディスカッションをしたこともある。理解を深めた上で、テーマを浮き彫りにさせた。凡事徹底。「投球フォームには介入しません。ただ柔軟性や可動域をちゃんとチェック。傷害を予防し、動きづくりを徹底しているだけ」。プロで15年指導したエッセンスを入れ込んだ。

都市対抗を間近に控えたある日。主戦の片山投手に声をかけた。調整に焦りが見えたからだ。「完璧な状態で都市対抗を迎えて欲しいなんて思わないよ。君には来年以降の野球人生の続きがある。今年は『これがちゃんとできました』ということが1つでもできてマウンドに上がってくれたら、俺は何も後悔もないし不安もない」。片山は「何か、吹っ切れました」と安心した表情を見せた。「5個の欠点があれば。5個すべてをクリアしようとすると自分にプレッシャーをかける。『今年はこれ来年はこれ』と成長していけばいい」。対話をしながら、選手の最高のパフォーマンスを引き出す。

都市対抗という大舞台で、選手とともに優勝の喜びを味わった。「うれしかったですね。後日会社に行くと、社員の方々が本当に喜んでくださっていた」。28日からは今年の大会が始まる。連覇の期待がかかるが「まずは1勝。その積み重ねです。ベストパフォーマンスが出せるように指導したい」と熱がこもる。

休日にはふらっと大学や高校の球場へ足を運び、フェンス越しに練習を見つめ、練習方法や取り組む姿勢も学ぶ。「今、毎日が楽しい。周りからも『よく生き生きとしているね』って言われます」。自分を高めるにふさわしい世界を探し、選手たちの成長を糧に、自らも成長を続ける。【保坂淑子】(この項おわり)

木村龍治氏(2019年1月撮影)
木村龍治氏(2019年1月撮影)

◆木村龍治(きむら・りゅうじ)1970年(昭45)9月1日生まれ、名古屋市出身。中京-青学大を経て92年ドラフト4位で巨人入団。04年引退。通算172試合、10勝5敗2セーブ、防御率4・21。引退後は巨人で15年コーチを務め、20年からホンダの投手コーチ。現役時代は174センチ、77キロ。右投げ右打ち。