夏の甲子園が終わってはや1カ月あまり。高校野球は今、新チームによる秋季大会が真っ盛り。26日、久しぶりに埼玉の県営大宮球場に出掛けた。秋の埼玉大会は3回戦に突入。甲子園で全国制覇した花咲徳栄、名将・若生監督率いる埼玉栄、そして浦和学院が8強入りを決めた。

 第1試合で花咲徳栄は17安打で10点を奪い7回コールド勝ち。甲子園で4番を打った野村佑希外野手はなんと1番を打ち5打数5安打。ただし高校通算32号は出なかった。第2試合は埼玉栄の本格派右腕、米倉貫太投手が6回から登板し4回をパーフェクト、8三振を奪う快投を見せた。第3試合でも浦和学院のプロ注目左腕・佐野涼弥投手が6イニングで7連続を含む12奪三振。1、2年生で臨む秋季大会は投手優位とされるがまさにそんな印象。ただ、この夏の甲子園では大会記録を更新する68本のホームランを見てきた。高校野球=本塁打というイメージが頭に残っていたせいか、3試合で本塁打ゼロはどこか物足りなさを感じずにはいられなかった。

 この夏、甲子園で本塁打が量産された理由を取材した。(1)トレーニングによる体力、体格の向上、(2)打撃練習やスイング量を増やしている、(3)フルスイングへの意識改革、(4)投手のレベルが高くなかった等だった。

 (4)の投手のレベルは流動的として(1)~(3)が正解であれば今後ますます本塁打の数は増えていくはずだ。秋季大会は1、2年生だけ。日程を見ても連戦が少なく、気候も涼しく投手の消耗が夏に比べ明らかに少ない。だから本塁打が少なくても当然といえば当然。来年夏の地方大会、甲子園でどれだけ本塁打が飛び出すかによって答えは出るのではないか。

 前置きが長くなってしまったが、ある「リポート」を紹介したい。テーマは甲子園大会における「飛ぶボール」の存在。

 「飛ぶボールが話題になり始めたのは8月11日、大会4日目のことだった。それは、今大会で数多くの記録を打ち立てた広陵・中村奨成がライトへ2本のホームランを放ち、全国のファンにその存在を知らしめた日でもあった。

 8月19日、大会11日目が終わるとNHKは、大会本塁打数が56となり、準々決勝以降の7試合を残して大会記録の60本まであと4本に迫ったと報じた。併せて、出場校に打力の高いチームが多いと指摘した。翌20日、朝日新聞は新記録を報じ『打者の努力のたまものというほかはないだろう』とした。

 果たして本当に甲子園に飛ぶボールは存在しなかったのか。体格の向上、筋力トレーニング、フルスイング。飛ぶボールの存在を認めない場合の根拠とされる事柄である。時代とともに、徐々に野球が変化しているのは事実だろう。しかし、それらは今年突然に起こったホームランの増加の説明になるだろうか。そこで今回、過去5年間の1試合あたりの本塁打数を、甲子園出場校ごとに夏の地方大会と甲子園とで比較することにした。

 2013~16年までの4年間は、夏の甲子園の本塁打数は32~37本の間に収まっていた。甲子園で1試合あたりの本塁打数が地方大会よりも多かったチームは全体の27・6%、同じだったのが16・3%、地方大会の方が多かったのが56・1%である。

 各校ごとに1試合あたりの本塁打数を比較すると、平均して地方大会のほうが0・11本多かった。統計学的にこの差が生じる確率は1%未満で、偶然には起こりづらい。したがって背後に何らかの理由があると考えられる。

 地方大会は甲子園より狭い球場で行われることが多く、相手校の投手の力量も甲子園出場校に比べて劣るのが普通である。したがって、地方大会の方が甲子園よりホームランが出やすい。地方大会と同じペースで甲子園でホームランが出た場合、1大会あたり10・6本増える計算になる。

 一方、今夏の甲子園の本塁打数は68本。甲子園で1試合あたりの本塁打数が地方大会よりも多かったチームが40・8%、同じだったのが6・1%、地方大会の方が多かったのが53・1%である。1試合当たりの本塁打数は地方大会の方が多かったが、その差はわずかに0・03本であった。当然ながら統計学的に意味のある差ではなく、今年は地方大会も甲子園も1試合あたりの本塁打数に差があったとは言えないということになる。30本以上のホームランの増加のうち全てを説明したことにはならないが、見逃せない大きな変化である。

 本来、甲子園ではホームランが出にくい。しかし、今年は甲子園でも地方大会並みにホームランが出た。球場の広さや相手投手のレベルの高さを前にしてもホームランが量産される理由が、そこに存在したはずである。7月に地方大会を終え、8月の甲子園までに、選手の体格が向上しただろうか。筋力がアップしただろうか。フルスイングにモデルチェンジしたのだろうか。そんな急激な変化は考えられない。

 仮に甲子園出場校の打者が今年は優秀なのだとしたら、例年より多くの打者が今秋のドラフトで指名されることだろう。そんなにいいスイングをしているのであれば、各球団は一刻も早く既存の選手と入れ替えていくべきだ。しかし、そうはならないだろう。今回の見かけの打力向上は作られたものである可能性があるからだ」

 リポートを送ってきてくれたのは野球観戦仲間の吉田暁生さん。吉田さんは現在インドのジャワハルラール・ネルー大学でソーシャルネットワークを研究している。

 「飛ぶボールが存在したのでは」というのが吉田さんの説。「飛ぶボール」があれば「飛ぶバット」だってあるかもしれない。いろいろな説があっていい。ただ、甲子園の後にカナダで行われたU18W杯で日本チームが放った本塁打は9試合でわずか3本(清宮2、井上1)。3本塁打は2次ラウンドに進出した6チームのうち4位、チーム打率2割5分1厘も4位、長打率3割2分4厘は5位。バットが金属から木製に替わり、外国人投手の動くボールにも戸惑ったという。甲子園大会直後で疲労や準備不足もあったと思うが、寂しい数字だと言わざるをえない。大会新の68本も事実だが、国際大会ではわずか3本。それもまた現実なのだ。