藤浪を取材しようと思って、先日鳴尾浜球場に出向いた。ファーム落ちした、己を見直す時だ。てっきり同球場に居残ってチェックポイントを見極めていることと思ったら、ファームは広島、福岡、高知と長期の遠征中。チームに同行しているという。残念でした。ならば、自分がもっているネタを出さざるを得ない。

 戦力になるか、否か。プロ野球界、選手の将来を見極める一応のメドは3年が限度。要するに3年で己をアピールしなければ、整理対象選手扱いになる可能性は大。選手の素材は多種多様。一足飛びに桧(ひのき)舞台でアピールする人。一歩、一歩地道に階段を上っていく人。各個それぞれだが、アピールは1軍での主張がすべてではない。2軍での努力も認められる。大きな夢と希望を抱いて入団した憧れの世界。1年でも1日でも長く夢を追い続けたいのは当たり前。厳しい勝負の世界。まわりには自分を売り込もうとしているライバルは山ほどいる。その中から人を押しのけてでも頭角をあらわすためには自分の持ち味、そう、特長を徹底的に磨いていくことだ。

 地道な努力で己をアピールしているのは阪神植田海内野手(21)。175センチ、70キロ、近江からドラフト5位で入団して今季3年目。50メートル5秒8の足と守りが売り物。昨年1軍の最終戦に代走でデビュー。足と守備面では認められつつある。首脳陣が1年前、右打ち一本からスイッチヒッターへ転身の背中を押してくれたのは「走力を生かせる」という期待からのはずだが、簡単にいかないのが技術の向上。まだ、もがき苦しんでいる最中だろうが、走れて、守れる選手は使い勝手がいい。バッティング技術がある程度でも向上するなら昇格は意外と早いかも。

 掛布監督も「1段ずつですが、しっかりと足で地を踏みしめて成長していますよ。バッティングは、まだこれからだと思いますが、下半身がしっかりしてきたぶん、守りなんかも安定してきましたね」と期待している。

 藤本守備走塁コーチも「高卒の選手ですからまだまだのところはありますが、今年はゲームに結構出ていますので、実戦を経験しているぶんいろんな面で成長していますね」と見ている。

 問題はバッティング。このところ打率は下降気味。打席を見ているとストライク、ボールの見極め、ヒッティングポイントの体得はまだまだつかみきっていない。生やさしいものではないのはよくわかるが、昨年オリックスのバッティングコーチをしていた元広島、阪神にも在籍していたことのある高橋慶彦氏が、スイッチヒッターになったときのことを、こう話していたことを覚えている。

 「スイッチヒッターが大変なのは、2人分の時間をかけてバッティング練習をしないといけないことですかね。右で1人分。左で1人分。左右合わせて1人分では他の選手の半分しか練習していないわけで、本当大変でした」。今どきでは当たり前のことだろうが、当時では新鮮な気がした。

 やっぱり努力だね。この話を植田にぶつけてみた。「やっています。でなければ、スイッチになった意味がないですよね。慣れない左打ちをするわけですから打つだけでなく素振りも納得のいくまでやっています。まだ本物とはいきませんが、だいぶ違和感なく打てるようになってきました」。その気になっている。今年はゲームにスタメンで出場する機会が多いのも気持ちが前向きになっている理由だろう。

 48試合に出場。170打数、38安打、打率・224。ただ気になるのが持ち味の足。昨年は12盗塁して一度も刺されていないのに、今年は11盗塁しているものの失敗が6。さて、どう考える。信用してもらえないかもしれないが、私は成長の証しと見る。他チームのマークが厳しくなってこその数字である。植田「バッティングも守備もまだまだ課題はたくさんありますが、盗塁の成功率をあげていくのも大きな課題です」。たいしたものだ。取材で盗塁成功率の話をしたあと、5度走っていずれも成功している。厳しいマークの中で成功させてこそプロ。もう見慣れたが、藤本コーチとのマンツーマンの守備練習も厳しい。汗ビッショリ、ユニホームはドロまみれ。ここタイガーデンにはよく似合う。恵まれた施設。最も有効利用した原口が1軍デビューした。若手にもの申す。原口に続け-。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)