中村奨成と甲子園球場。我々、どうしても結び付けたくなる。昨夏の全国高校野球大会で大フィーバーした選手。1大会のホームラン記録(6本)を塗り替えた活躍は、まだ記憶に新しい。憧れだった。夢だったプロ野球界、願望が現実となった。広島からのドラフト1位指名も。大観衆で盛り上がる中で放った6発があっての事。その中村奨成が今回は広島カープのユニホームに身を包んで野球の聖地甲子園球場に足を踏み入れた。プロとアマ、環境こそ違え甲子園には数々に思い出があるはず。久々の聖地も意外や意外、厳しい現実が見えた。

 3連戦の初戦は指名打者での出場だったが、2試合目はマスクを被って先発出場した。守りの要からマスク越しに見る甲子園球場の眺め。また、バッターボックスではあの時の一発一発がよみがっているのではないかと思ったら「特別なことは何も感じませんでした」さらりとした答えが返ってきた。よくよく考えてみたらそうだよな。高校時代の思い出に浸っている場合ではない。この日の試合を振り返れば当然だ。先発ピッチャーはすでにウエスタンで3勝している加藤だったが、結果はいいところなし。飯田、カンポスとつないだものの、7イニングで被安打はなんと13本。ホームランがあれば盗塁もひとつ許して10失点。2ケタの得点を許して責任を感じているのだろう。キャッチャーであれば当然だが、それでも、大きなジェスチャー入りでピッチャーに低目へ投げるように催促したり、両手を大きく広げて内外角へ幅広く投げることを要求。そして、思い切って向かってくるよう指示をする。投手をぐいぐい引っ張る姿は捕手の本能とでもいおうか、素材は申し分ない。

 試合前の練習も息を抜くところなどない。アップしたあとは、バッティングに始まりスローイング、ワンバウンド捕球が主な練習だが、スローイングには盗塁阻止が目的の2塁への送球があれば、打球を処理したときのクイック送球もある。また、ワンバウンドの捕球もピッチャーの投球によるものと、外野からの送球はワンバウンドもツーバウンドもありコーチの指示に従って繰り返し、繰り返し何度も行われる。そのひとつ、ひとつが勉強だ。中村奨成が練習に取り組む姿勢は真剣そのもの。3戦目の出場はなかったが、ブルペンで味方投手陣の球筋、癖を把握しておくのも大事な仕事。まさに“野球漬け”の毎日である。

 元捕手の水本監督は愛弟子の現状をどう見ているか。「成長度ですか…。うーん。そうですねぇ、いまはちょっと落ち気味ですね。バッティングはバットが強く振れるようになったし、こちらはよくなっていますが、キャッチャーの方がねえ。投手のリードでもかなり苦労していますし、セカンドへのスローでも、高校時代の捕手はみんなホームベースの横まで左足を踏み込んで投げていますが、プロではそこまで踏み込めません。プロの世界ではホームベースの後ろですべてを準備して送球するわけですから、体の使い方が全然違います。だから高校の時投げていた強い球が投げられないし。まあ、そのへんで戸惑っているというか、落ち気味の原因でしょう。何事も経験ですから」現在は坂倉、船越の3人を併用している。いずれも申し分ない素材。ライバルとして競り合うことはプラス材料だ。

 キャッチャーである。重点は守りにある。とにかく、まずは野球を知ることだ。時間はかかるだろう。「当然だと思いますが、何かにつけてスピードなどすべてが高校時代とは違います。もう、僕としては、プロの選手になった以上、プロの選手として野球に取り組むべきだと思います。プロ入りして約4カ月ですが、やっぱりこの世界はすごいですね。守ることだけでやることは本当、いっぱいあります。練習あるのみですね」まだこの段階だが、中村奨成がまともにプロの野球と対面しているところに将来を見た。

 捕手の心得をひとつ。何事にも準備を怠るな。

ブルペンで投球を終えた広島飯田哲矢(右)と話す中村奨成(2018年2月19日撮影)
ブルペンで投球を終えた広島飯田哲矢(右)と話す中村奨成(2018年2月19日撮影)