鳴尾浜球場への広島戦の取材に足を運んだ。まさに猛暑。とにかく暑い、浜風はゆるやかに吹き抜けてはいるものの、熱風だ。思考力は熱中症とまではいかないまでも、練習を見るのも慢性化していて、ただ、何となく目で追っているだけ。思考力なくしていいネタと遭遇するはずがない。ゲームをみていて広島のエルドレッド、メヒアの両外国人に連続ホームランが飛び出したが、ここはファーム。打って当たり前の出来事か。試合は回を重ねるごとに大味な展開となり、興味が薄れかけた中、ハッとわれに返った。

広島のマウンドにあがっていたのは薮田和樹投手(26)だった。昨シーズン150キロのストレートを武器に大ブレーク。38試合に登板して、15勝3敗。勝率8割3分3厘でタイトルを獲得。今季はさらなる成長がきたいされているピッチャーのはず。「なのに、なぜ…」疑問を抱いてスポットを当ててみた。

故障…。よくあるケースなので取材してみると、関係ないという。試行錯誤の真っ最中で現状は何を試してもいい方向に進んでくれない。苦しい。もがき苦しんでもいっこうに調子があがってこない。精神面を含めた一番厄介な魔物がとりついた。復活をかけて1軍でも先発で4試合、リリーフで5試合に登板しているが、1軍に定着してローテーション入りするまでには程遠いピッチング。内容をひもといてみると一つの答えが見え隠れしている。9試合、26回3分の2。被安打26、奪三振18、与四死球33、失点22、自責点17。成績は2勝1敗。防御率5.74だがコントロールに注目。

投球回数の26回3分の2に対し与四死球が33。要するに1イニングに1個以上の四球を与えている。勝負にいっての四球はピッチャーとしては最悪の行為。野手は投手が投じる一球一球に集中している。ボール球が多くなると守っている時間が長くなる。集中力は薄れていく。一度ゆるんだたがは簡単には戻らない。結局は攻撃面にまで影響を及ぼし、すべてが悪循環になる。ピッチング内容に見た薮田の現状だ。

鳴尾浜でも、立ち上がりは江越、西岡を連続三振に仕留めた。いいスタートを切ったはずなのに乗っていけない。微妙なコントロールが思うにならず、相手を自分のペースに巻き込めない。いったん制球が乱れ出すとストライクを取ることすら、ままならない。結局は5回3分の2で、1試合分の124球の投球数を費やしたことと、8個の四球が物語るようにこの日も復活の見通しは立たないままだった。早期復帰の期待が大きいだけに、腹の虫が収まらないのが水本監督である。

「見てたら腹は立つわ、いらいらするわ、たまらんですわ。なぜ、いまの状態になっているのかがわかっていない。昨年の成績だけを追いかけているというか、現状をどう理解しているのかわからん。中途半端なやりかたでは復活できないところまできているのだから。すべて、一からやり直すしかないのに」

怒り心頭の同監督だが、そういえば数年前、今季は投手陣の柱になっている大瀬良が同じような状況でファームに降りてきたときと同じ発言に聞こえた。果たして精神的なものなのか、それとも技術的なものなのか。大瀬良を生き返らせた修理工場の手腕に期待したい。

佐々岡ピッチングコーチも悩んでいる。立ち直る気配のないピッチング内容に「もっとどんどんストレートで押していってほしい。やっぱりピッチングの基本はストレートだし、まっすぐがしっかりしないと変化球も生きてこない。ランナーを出すとコントロールも乱れるし、1軍でも投げていますがいい結果は出ていません。今日の内容を見てもまだまだですね」。悩みつきない同コーチだが、大瀬良のときも絡んでいる。二人三脚は心強い。

「薮田君、ちょっと話を聞かせてくれる…」。帰り際、バスに乗る直前に声をかけてみた。「ハイッ。お願いします」。真面目な青年だ。神妙な面持ちで、しっかり立ち止まって話をしてくれた。私もそうだったが、こんな時はあまり話はしたくないもの。気持ちはよくわかる。ひと言だけ聞かせてもらった。「シンプルに物事を考えるようにしています。いま課題をコントロールに置いて練習していますが、現状から少しでも前を向いて進めるように頑張るしかありませんから」。現在ウエスタンでは7勝0敗。ファームだから勝っている内容だが、復活にはひとつ、ひとつの積み重ねから自信をつけるしかない。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)