<イースタンリーグ:DeNA5-5西武>◇29日◇横須賀

捕手で通算出場1527試合、引退後は4球団で計21年間を過ごし、合わせて42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)は、DeNAのドラフト3位の高卒ルーキー左腕・松本隆之介投手(19=横浜)の制球難に、前回登板での大量失点で負った心の影響を感じた。

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両チームとも残す試合はこの日を含めて5試合。優勝はロッテが決めており、DeNAも西武も実質的には来季に向けて動きだしている。西武は左腕内海。39歳の内海と19歳のルーキー松本、20歳差の両先発で始まった。

内海のピッチングはまとまっていた。制球が良く、さらに緩急が使えていた。内海レベルで制球がいい時というのは、ストレートだけでなく変化球でも内外角をきちんと投げ分ける。右打者の内角への変化球でも、外角への変化球でもストライクが取れていた。中身の高いピッチングと言えた。

最速141キロで、4回を4安打6奪三振1四球での無失点。チェンジアップが良く抜けていて、打者はタイミングを外されていた。こういう時の内海は見るからに安定感があり、この日の内容ならば1軍でも期待できると感じた。1軍はまだ試合数を残しており、終盤戦での昇格の可能性はあるだろう。ベテランらしい落ち着いたマウンドだった。

その内海と意識的に比べて見たのではないが、松本のいい時と、悪い時が1試合の中で突然入れ替わる極端なピッチングを目の当たりにした。初回、渡部には四球を出した後に2ランを浴びた。確かに制球にはまだばらつきはあるが、最速148キロの球威は力強く、少々のコントロールの乱れよりも、自分のボールに自信を持って投げ込んでいく姿には若々しさを感じ、初回2失点にもそれほどの悪い印象は受けなかった。

2回になると、フォークかツーシーム系で空振り三振、カーブで見逃し三振、カーブで空振り三振と3者連続三振と素晴らしいピッチングだった。初回の2失点からの立ち直りを感じさせた。それが4回になると一気に崩れていく。

先頭打者にフルカウントから四球を出すと、ここからストライクが入らなくなる。ストレートの四球、ストレートの四球、さらに次打者にも3-0から何とか137キロのストレートでストライクを取るが、3-1にするのが精いっぱいでこの打者も四球。4連続四球でこの回で降板した。最速148キロが11キロもスピードを抑えてストライクを取りに行く姿に、どうしたものかと心配になった。

球筋はいわゆる置きにいくボールで、ベース板近くになるとボールに力がないために垂れてしまいボールになる。スタンドから見ていてもコースは入っているが、低いと判定されていた。試合の中でこうも変わってしまうものかと、多少驚きはあったが、これは松本が大きな課題に直面していることを示している。

松本は22日のロッテ戦で先発し、初回打者15人に5安打8四球で13点を奪われている。制球を乱して自分のピッチングが分からなくなってしまったのだろう。ルーキーとは言え、かなりショックが残る試合となった。それから1週間、松本の頭の中にまだロッテ戦の大量失点のダメージが残っていても不思議ではない。

そして、そうした負のイメージは突如として頭をもたげてくる。これから松本は同じ経験を味わう事になるだろう。それは本人にしかわからない心理面の問題だが、そこを少しずつコントロールして、ちょっとずつでも先に進んでもらいたい。

課題としていきなり、四球を出さないとか、制球難を直す、という目標を掲げるのではなく、例えば心の中にちょっとしたパニックが起きそうになった時に、頼れるボールを作るところからはじめてもいいだろう。困った時はこのボールで何とか乗り切ろう。そう思えるボールを、こうして試合を経験できる中で、試していくのもひとつのやり方だ。

経験と技術で確実に抑えた39歳と、好不調の激しい波の中で自分を見失った19歳。コントラストが印象に残る試合となった。(日刊スポーツ評論家)