宇都宮工(栃木)のエース小林倫之慎投手(3年)が、亡き父へささげる力強い投球を披露した。烏山を5回1失点に抑え、7回コールド勝ちに貢献した。身長170センチと小柄ながら、スライダーなど4種類の変化球を投げ分ける器用さが武器の左腕。「甲子園に行くと、お父さんも喜んでくれると思う」と最後の夏に全力を注ぐ。

 今春の県大会ではじめてエースナンバーをつけ、大会へ準備を進めていた矢先に突然悲劇は起こった。4月20日。1人で自宅にいた父達男さん(50)が突然倒れ、亡くなった。当時、学校に行っていた小林は「朝、普通に元気だったので驚きました。春の県大会も楽しみにしていたのに」と振り返る。野球場に足を運ぶなど、父は野球に励む1人息子を熱心に応援していたという。

 朝と晩、父の仏壇の前で会話をする。試合前日も小林は目を閉じ、いつもより長く父と話した。「『絶対勝ってくるから』と言いました」とかみしめるように話した。試合では緊張もあり、初回に1点を失った。それでも崩れなかった。「絶対にこれ以上やらないという気持ちで投げた」と初回以降は1安打に沈黙させた。父が見ることのなかった「1」を背負う背中は、試合ごとに大きくなる。【松尾幸之介】