今秋ドラフト1位候補の県岐阜商・高橋純平投手(3年)の夏がついにスタートした。全国高校野球選手権大会(8月6日開幕、甲子園)岐阜大会準々決勝の中京戦で、宣言通り、今夏初のマウンドに上がった。7回から2番手で登板し1回2/3を2安打無失点。本来の姿からはほど遠かったが、直球は140キロを超え、3戦連続で登板回避の原因となった左太もも裏肉離れからの回復をアピールした。チームは優勝候補に競り勝ち、準決勝に進出。152キロ右腕が春夏連続甲子園を決めて、聖地での完全復活を図る。

 「ピッチャー高橋君」のアナウンスに球場が、どよめいた。7回。力水を口に含んだ県岐阜商の背番号1が全速力でマウンドに上がった。待ちに待った今夏初登板は2点リードで迎えた終盤での救援。「やっとマウンドに上がって、1歩が踏み出せたなと思う。リードしてくれていたので楽に投げられた」。久しぶりに見る景色に、気持ちが高ぶった。

 本格派右腕のイメージとはまるで違う“超脱力投球”で24球を投げた。7回はこの日最速の144キロ直球にスライダー、カーブを織り交ぜて3者凡退。「球種もバレバレのフォームだったけど、バランスよく投げられた」。8回は「欲が出てコースを狙いすぎた」と2死から連打を浴びて交代。4番との対戦を前に降板したが「個人の勝負よりも、チームの勝利が優先ですから」と晴れやかにマウンドを譲った。

 高橋の登場にネット裏も色めき立った。登板に半信半疑だったスカウトも一斉にビデオカメラを構えた。最多5人で登板を見つめたロッテに、4人態勢でクロスチェックした阪神、巨人。11球団23人のスカウトが一挙手一投足を追いかけた。今秋ドラフト目玉のコンディションが、プロ球団の一番の関心事であることは明らかだった。

 入念に復帰計画を練ってきた。この試合を復帰の目安にしてきたという小川信和監督(43)は、8回に2連打を浴びスパッと交代。「打順が巡ってくるか、もしくは(4番)今井君の前で」と決め事だった。先発して7回から中堅を守っていた村居を当たり前のようにマウンドに呼び戻した。「本調子にはほど遠い」というエースに無理はさせなかった。

 これまで試合後のインタビューでは、決まったようにポーカーフェースを貫いてきた18歳が、初めて笑顔になった。「ベストに比べれば50%くらい。それでも投げることはできる。痛み? 最後の夏なのでそんなことは言ってられない」。明日23日に再抽選が行われ、翌24日の準決勝に臨む。甲子園まであと2つ。準決勝以降も救援登板になるとみられるが、聖地で完全復活する日まで負けるわけにはいかない。主役の夏がようやく幕を開けた。【桝井聡】