笑顔でやりきった。13点ビハインドの5回2死、倶知安農・蘭越・小樽明峰唯一の3年生、高松柊斗に打順が回ってきた。ファウルで2球粘り、3ボール2ストライクからの6球目を振り抜いた。打球は中堅方向に。一塁を蹴り二塁へ進みかけたところで、中堅手が捕球。少し空を仰いだ後、気持ちを静め、整列のために本塁へ走った。

涙はない。「今まで練習でやってきたことが全部出せた」。3番一塁で先発出場し、3回1死から中前打も放った。12点差をつけられた4回からはマウンドにも立った。4者に無安打も、四球と2度の暴投で1失点。決して美しい結果ではなかった。それでも連合チームの責任教師を務めた倶知安農の鈴木貴史監督(37)は「下を向かず最後まで笑顔でやってくれた。3年間、見てきて本当に良かった」と目を細めた。

1年春に入部した時点で、倶知安農は高松1人だった。丸2年、鈴木監督とマンツーマンで練習を続けてきた。ノックは捕球してネットに向けて投げる。打撃練習は1箱ボールを打ち終わると監督と2人で球拾い。高松は「監督がいてくれたし寂しくはなかった。1度も辞めようと思ったことはない」と振り返った。今春、初めて3人の後輩が入部。「高校野球はまずは礼儀。少しでも後輩に伝わったかな。何とか伝統を引き継げたかな」と笑った。

鈴木監督は旭川大高の捕手として00年夏の甲子園を経験。17年に監督就任し、2年目に高松が入らなければ部員ゼロで廃部になるところだった。「私を指導者でいさせてくれた高松に感謝です」。孤独な戦いを乗り越えた3年生の夏が、終わった。【永野高輔】

▽倶知安農・蘭越・小樽明峰の由利矩章監督(36)「連合での活動9日目、実戦4戦目で初めて点が入った。これまでで1番いい試合をしてくれた。3年生の高松君が、うまく連合の1、2年生を引っ張ってくれた」