<高校野球熊本大会:必由館12-2阿蘇中央>◇20日◇4回戦◇藤崎台

 最後まであきらめない勇気を届けた。4回戦で阿蘇中央が必由館に8回コールド負けした。強い雨の中でミスも重なり、大量リードされたが、10点を追う8回も満塁のチャンスをつくって食らいついた。地元は豪雨による被災で、部員にも家を失った選手がいる中、最後まであきらめずに戦い抜いた。後藤至成監督(55)は「地元の思いも背負った選手たちはよくやった」と胸を張った。

 雨が強まっても、後藤監督はベンチの外に立ち続けた。選手たちと一緒に雨とも戦う。そんな強い気持ちを示すように雨にぬれた。

 しかし、8強への夢も雨に消された。雨脚が強まったのが2-2と同点に追いついた直後の4回の守り。マウンドのエース松本大生(3年)は何度もポケットのロジンバッグに手をやり、滑る指先を悔しそうに見つめた。ストライクをとるのが精いっぱいで、6安打を集中された。さらに味方のエラーも重なり、一挙5点を失った。「雨がね。今はいやですね。前はそうじゃなかったんですが…」。後藤監督はつぶやいた。

 地元は12日の豪雨で深刻な被害にあった。同校のグラウンドは水没。山からの流木なども積み重なり野球をできる状態になかった。出てくることが可能な部員で水を抜き、流木を片付け、何とか内野グラウンドだけは使える状態になったという。しかし、自宅の損壊、道路の寸断などで学校に来られない選手がいた。

 試合後、黙々と片付けをこなす背番号のないユニホーム姿の女子高生。同校初の女子選手、倉岡里奈二塁手(1年)。中学ではソフトボール部に所属も、甲子園へのあこがれが募り、硬式野球部への入部を実現させた。最初の夏。わくわくする夏に被災した。自宅が土砂崩れで損壊。今は両親、弟2人と知人宅に身を寄せる。弱音など吐かず、裏方として3勝をあげたチームに貢献してきた。「思い出の夏になりました」。涙はない。

 8回に10点差に広げられた。それでも粘り、気持ちをつないで、満塁のチャンスをつくって攻め立てた。得点はできずコールド負け。しかし、球場を大きな拍手が包み込む。後藤監督は熱い応援に深々と頭を下げた。「いろいろ協力してもらった地元の人たちに勇気づけられ、その思いを背負って戦ってきた選手は本当によくやった」。

 新チームもすぐには始動できない。まず学校、地域の復興に取り組む夏休み。それでも全員で戦い抜いたこの夏の思い出は、一生消えない。【実藤健一】

 ◆今夏の阿蘇中央の戦い

 7日に鹿本商工との1回戦で16-2と大勝発進。2回戦を控えて12日に豪雨被害。当初、13日に組み込まれた日程を熊本県高野連に「厳しい」と伝え、14日に変更された。その日も雨天順延でようやく15日に試合が行われ、八代工に8-3で快勝。18日の3回戦は天草に1-0で競り勝ち、迎えたこの日だった。同校は10年に阿蘇と阿蘇清峰が統合し現校名。