米国は今、スーパースターが勢ぞろいしたNBAファイナルで盛り上がっている。時を同じくして、MLBではオールスターのファン投票が始まり、このタイミングで「大谷翔平スーパースター化計画」を論じる米メディアが出てきた。

 それは米ヤフー・スポーツの長い記事だった。メジャーは今季、ヤンキースの快進撃や若手有望株の相次ぐ登場などで盛り上がっているように見えて、実は観客動員が昨季より1試合平均2000人減になっている。4月から悪天候や極寒での試合が多かったせいもあるが、MLBは他の米4大スポーツのようなスーパースターを生み出すことに苦戦しているのが大きな要因と記事は指摘している。

 そこで大谷翔平だ。ベーブ・ルース以来の二刀流、つまり1世紀に1人の逸材が出てきた今、球界はこの好機に乗っかるべきだというのだ。「若干23歳の未来のベーブ・ルースは、米スポーツ界最大の注目の1つになるべきだが、少なくとも今はまだそうなっていない」とし、「MLBはどうやったら大谷を、どの都市に遠征しようが地元ファンから絶対に見逃せないというほどの存在にまで押し上げられるか、知恵を絞らなければならない」と提唱している。

 野球界のみならずあらゆる世界で広く知れ渡る国民的スターというのは、確かにMLBからはなかなか出てこない。球団はどの米プロスポーツよりも地元密着型の経営になっていること、東と西とでは3時間も時差があることなどがその要因だ。東海岸にいると西海岸のナイターが夜10時過ぎの開始となるため、子どもたちが観るには厳しい時間帯になる。全米の幅広い地域で老若男女にまんべんなく親しまれるのがスーパースターの条件だとすれば、西海岸の選手には不利だ。

 しかも米国には「東海岸バイアス」というものがある。メディアが放送、活字いずれも東海岸のチームや選手を偏重する傾向があることをこう呼ばれており、その原因はニューヨークやボストン、首都ワシントンなど東海岸の大都市にメディアが集中しているためだ。

 この他、英語のネーティブスピーカーではないというのも米国内でスーパースターになるためのハンディになるが、そうしたいくつもの困難があることを承知の上で大谷を国民的スーパースターにすべきという声が上がっているのだからすごい。ちなみに最近のMLBで国民的スーパースターといえば、生涯ヤンキースで95年から20年間プレーしたデレク・ジーター氏(現マーリンズCEO)だが、同氏は全盛期、メジャーで唯一米国内企業とのスポンサー契約が10億円を超えていた。他の選手が多くても3億円程度という中で、まさに次元が違うスーパースターだった。スーパースターになるということは、そのジーター氏に並ぶかあるいは超えなければならないということだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)