メジャーのストーブリーグになると活動が活発化するのが代理人。中でも「スーパーエージェント」と呼ばれるスコット・ボラス氏(65)に大きな注目が集まっている。ボラス氏といえばポスティングシステムでメジャー移籍を目指す西武菊池の代理人となったが、今オフFAの一番の大物ブライス・ハーパー外野手(26=ナショナルズFA)の代理人でもあるためだ。

ボラス氏は、強気の交渉で知られ、資金を出し渋る球団経営陣を声高に批判し、球団との契約金交渉ではさまざまな手法で相手を説得する。そのためFA選手の契約は、いい条件を引き出すまで年明けまで交渉を引っ張ることが多く、自分からはまず折れない。ドラフトで指名された選手が思ったような契約を提示されないと1年浪人させるという手法も、ボラス氏はよく使っていた。

しかし昨オフは多くの選手が「待ち作戦」を使った結果、2月になっても契約が決まらないFA選手が続出した。ナショナルズからFAとなったジェーソン・ワース外野手はボラス氏を代理人にしていたが、キャンプが始まっても契約が決まらず、しびれを切らして自分から各球団に電話で売り込み、開幕後の4月3日にようやくマリナーズとマイナー契約を結んだ。6月に引退したが「11月には契約オファーをもらっていたのに、代理人にまだ待てと助言された。あれはよくなかった」とボラス氏のやり方を批判している。

ところが今オフ、FA市場がいよいよ始まるという段になり、ボラス氏が意外な発言をし大きな話題を呼んだ。大物FAとなる自身のクライアントについて「ブライス・ハーパーは、私が代理人としてかかわってきた中で、誰よりも最高の技術を持ち、誰よりも素晴らしい人柄を持つスーパースターだ。彼と私は、彼がどの球団と契約するかすでに決めている。だがブライスは自分で皆さまにお伝えしたいと言っているので、彼が明らかにするのを私も待つ」と語ったのだ。

ハーパーはこのままいけば史上最高額の契約を結ぶことが確実視されている。米メディアの中には、14年4億2000万ドル(約462億円)という巨額な長期契約を予想するものもある。ボラス氏にとっては、いくらでも強気に契約交渉ができる選手。いつもの同氏なら獲得競争をあおるようなことを言ってくるはずだが、あおりとは正反対の発言をしたため、米球界周辺の人々は驚き「ジョークだろう」と誰もが口をそろえた。

しかしこれはまんざら冗談ではなく、ボラス氏が昨オフの苦い経験から強気一辺倒の交渉術を改めた可能性もあるのではないだろうか。強気で市場をあおるような時代はもう終わり、これからは新しいアプローチが必要なのかもしれない。いずれにせよ、今後のボラス氏の発言が大いに注目される。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)