MLBでは投手が高度なデータ分析テクノロジーを利用し、投球レベルを年々上げている。ハイテクなトレーニング施設で鍛えた直球の球速はどんどん上昇し、変化球は回転数が増し、球の変化はより複雑化。投高打低の傾向は強まり、今季のメジャー平均打率は2割4分2厘と昨季よりも2厘落ち、5年前より1分3厘も落ちている。

しかし、このまま投高打低の傾向が続いていくのかといえば、そうでもなさそうだという。球団は個々に、高度にハイテク化された「スマート打撃マシン」の導入を始めており、それによって今度は打撃が高度化する可能性が指摘されている。

米ヤフースポーツが6月21日付でこのスマート打撃マシンを特集していたが、それによるとマシンは投手の投球データをインプットすることにより、その投手と同じ球速、同じ回転数、同じ動き、同じリリースポイントの球が出てくるという。メッツのエース右腕ジェイコブ・デグロム(34)のチェンジアップのデータを入力すれば、デグロムが実際投げている球とほぼ同じ球がマシンから投じられる。どんな球速や球種にも対応し、その投手の組み立てパターンを入力すれば本物のような組み立てで投じることもできる。

投手と打者の対戦において初顔合わせは投手有利といわれる。だが、対戦前にこのマシンで相手の投球データを入力し何百球も練習すれば、初顔合わせとは思えない感覚で打席に入ることが可能というわけだ。

同マシンはカナダのメーカー「トラジェクト・スポーツ社」が開発したもので、ある1球団が昨季、先陣を切って導入。今季中には7球団が新たに導入する予定だという。どの球団も最新の秘密兵器導入を敵に知られたくないらしく、導入している球団がそれを公表することはない。ところが、ニューヨーク・ポスト紙はメッツが今季、このマシンを購入したとスクープしていた。

これまでもハイテク打撃マシンは開発されていた。さらに進化して、さまざまな球種を織り交ぜ、本物の投手のような組み立てで投じられる機能はこれまでにない最先端技術。相当な高額機器でもあり、一部の資金力豊富な球団が他に先駆けて導入している状況のようだ。

最先端データ分析が投手を進化させてきたように、最先端スマート打撃マシンも打者のレベルを引き上げていくのか。はっきりと形に出るのは4~5年後ともいわれている。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「水次祥子のMLBなう」)