久しぶりに取材でヤンキースタジアムを訪れた。コロナ禍前以来なので、4年ぶりだ。球場内部の装飾品や備品が以前より豪華できれいになっており、長い歴史を感じさせる展示物も増えていた。

しかしヤンキースの内情はというと、大変な状況になっていた。チームは地区最下位に沈み、8月12日から球団41年ぶりの9連敗を記録する泥沼状態。辛口なニューヨークのメディアからは戦犯探しをする記事も目につくようになり、地元の熱烈なファンからは「Fire Cashman(キャッシュマンGMをクビにしろ)」と叫ぶ抗議運動も出ている。

低迷の要因の1つとして元所属選手から指摘されているのが、データ分析に傾倒し過ぎる球団の方針だ。2019年までヤンキース傘下マイナーでプレーしていた外野手ベン・ルータ氏(29)が人気ポッドキャスト「ファウル・テリトリー」で語ったのだが、それによるとヤンキースは打者の評価をするときに打球速度と角度を極端なほど重視しているという。「打者に必要なものは球を95マイル(約153キロ)以上の速度で角度をつけて打つこと、そうでなければ四球を選べ」というのを選手に徹底させている。MLBでは数年前にフライボール革命が流行り、球界全体でも角度をつけて強い打球を打つ選手は増えたが、ヤンキースはとにかく極端らしい。ルータ氏は「この指標は、三振しても何の影響もない。選手の三振が多くなっているのはこのせい。ヤンキースではマイナーでもこの指標を使い、FA選手の獲得やトレードでもこの指標を重視して戦力補強をしている。同じタイプの選手ばかりになる」と指摘し「ヤンキースではもう野球の基本も教えていない」と話している。

ヤンキースタジアムではレッドソックスとの伝統のライバル対決3連戦を取材したのだが、かつてのような盛り上がりはなかった。いつも超満員の大人気カードのはずが、今回は客席に驚くほど空席が目立っていた。しかも3連戦最終日の日曜日には、球団のレジェンドであるロジャー・マリスのボブルヘッド人形が来場者に配られた。このような目玉景品は本来なら客入りの悪いカードで配られるのが普通で、これまでレッドソックスとの伝統の一戦で何かが配られることなど1度も見たことがなかったので驚きだった。記者席もこのカードなら以前は超満員だったが、今回は信じられないほどスカスカ。試合もヤンキースが劣勢続きで3連戦をスイープされ、ブーン監督も「彼らに蹴散らされた」と白旗を振っていた。「帝国」と呼ばれた名門球団のこの没落はショッキングだが、球団にとっては今が大きな転換期に来ているのかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「水次祥子のMLBなう」)