「オオタニサーン!」。エンゼルス大谷翔平投手(23)が本拠地デビュー戦でメジャー初本塁打を放った時、米国テレビ放送の実況が叫んだ言葉だ。この先、何度も聞くシーンになるだろう。実はこれは序の口で、“大谷効果”によってさまざまな日本語が、球場内を駆け巡っている。

 「チョウセイ」、「ゼンゼンワカラナイ」、「ムイカ」。時々、こんな日本語が聞こえてくることがある。声の主はマイク・ソーシア監督(59)だ。試合前に行われる日米メディアのインタビューで、同監督はたまに日本語をしゃべる。スペイン語も堪能で、南米出身のインタビュアーにはスペイン語で応答するバイリンガル監督。日本語も話すなら、トリリンガルでは?と思うが、隣には、いつも日本語の“先生”がいる。米国と日本で育った日系人の球団広報、グレース・マクナミーさん(45)だ。

 日本メディアからの日本語の質問を英訳し、ソーシア監督の英語を日本語訳している。同広報は、野茂英雄氏がドジャースに所属していた95年から98年のシーズンまで同球団の広報を担当。当時、ドジャースのマイナー組織で指揮していたソーシア監督とは、その時からの付き合いでもある。

 大谷関連では、メジャー野球への適応や調整についての質問が多かった。その度に「adjustment」という英語が使われ、グレース広報は、その日本語訳として「調整(適応)」と、何回も言った。そのうちに、同監督は日本語を覚えてしまったのだろう。最近では、大谷の登板間隔の「中6日」もよく話題になり、「ムイカ?」と日本語を確認。ついには、「頻度の高いソーシア英語と日本語訳」のリストまで出来上がった。同広報が、これまでのインタビューの中からかき集め、完成させた。

 日本語学習中なのは、監督だけではない。気温が低いとき、「サムイ」とエンゼルスの番記者はうれしそうに話す。5月からは、球団スタッフの発案で球場内エレベーターの案内係も毎日、一言ずつ日本語の練習に取り込み始めた。大谷はよく、「自分がやりやすい環境を整えてもらっている」と周囲に感謝の気持ちを示す。“大谷効果”がもたらした、日本語の波及。なんだか、日本人にとってもアットホームな空気がスタジアムに漂っている。

【斎藤庸裕】(ニッカンスポーツコム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A.」)


ソーシア監督(左から2人目)と神妙な表情で話すエンゼルス大谷。左は水原通訳(撮影・菅敏、写真は18年4月19日)
ソーシア監督(左から2人目)と神妙な表情で話すエンゼルス大谷。左は水原通訳(撮影・菅敏、写真は18年4月19日)