ドジャース前田健太投手(31)には、どこか自信と落ち着きがある。19年の地区シリーズ敗退後「年々、厳しい中で自信をもてる部分が出てきているというのは、すごくいいことなので。そこはプラス」と言った。伝家の宝刀スライダーが理想に近づいていることに加え、チェンジアップの精度もここ数年で確実に上がっている。

今や左打者への必殺球として欠かせない球種に、メジャーの強打者も舌を巻く。球宴出場3度、通算135本塁打を誇るロッキーズの左打者マーフィーは「直球に見える時間が長い。グリンキー、ストラスバーグと似ている」と証言。ストラスバーグと言えば、19年のワールドシリーズMVPで、今オフにナショナルズと再契約して話題となった右腕。前田のチェンジアップは同投手と同じような軌道といい、マーフィーに「なるべく振りにいかないようにしているよ。捉えるのは難しいから」と言わしめるほどの精度となった。

左打者だけでなく、今季は右打者へも有効活用した。本塁打王3度、打点王2度のロッキーズ・アレナドは「スプリットみたいだね。プレートを通過するぐらいで落ちる」と変化の仕方を表現。なだらかに沈むのではなく、直球のように見えて打者の手元で落ちる軌道だという。自在に使える勝負球が増えたことで、投球の幅は確実に広がった。

技術のレベルアップだけでなく、メジャーリーガーとしての頼もしさも増した。シーズン終盤のパドレス戦。1点差の9回、マウンドに上がった。捕手とサイン交換中、2度プレートを外し、一呼吸置いた。「キャッチャーが勘違いしているところがあったので。きちんと確認というかミスをしたくなかった」。ドジャースの新人捕手スミスをリードするように間をとり、マウンドに呼び寄せた。

シーズン前のキャンプでは「自分が(チームを)引っ張ってという思いはないですけどね。優勝するために1つのピースになれれば」と謙遜気味だった。だがスミスから「ケンタは(マウンドで)何をすべきか分かっている。どう考えているのか、いつも彼から学んでいるよ」と言われるように、バッテリーとして頼りにされる存在となった。

来季、先発ローテーションの死守と悲願のワールドシリーズ制覇に挑む。ドジャースで5年目。今まで以上の結果だけでなく、常勝チームの中心選手としての役割にも期待したい。【斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)