メジャー取材1年目から4年連続で、全米野球記者協会(BBWAA)から投票を割り当てられている。今年はア・リーグのサイ・ヤング賞、アMVPを担当した19年は誰を選ぶか、かなり悩んだ記憶がある。大谷の同僚トラウト外野手、アストロズのブレグマン内野手のトップ2は決まっていた。打率、本塁打、打点の打撃3部門やOPS(出塁率+長打率)、WAR(控え選手に比べ、どれだけ勝利を上積みしたかという貢献度を示す指標)も考慮に入れた。

自己最多の45本塁打をマークしたトラウトだが、9月中旬から故障でシーズンを終えた。一方のブレグマンはWAR9・0でメジャートップ。フル出場でチームのポストシーズン進出に貢献した。これを踏まえ、1位にブレグマン、2位にトラウトを選んだ。だが、結果は逆の順位だった。どの記者がどの選手に票を入れたのか、BBWAAのホームページで公表されるため、後にエ軍の番記者から「君はブレグマンを選んだのか」と声をかけられた。特に意味はないのだろうが、記者投票にトラウマのある私は違和感を覚えた。

“時効”として明かす。前年の18年は、ア最優秀監督賞の投票を割り当てられた。アスレチックスのメルビン監督(来季からパドレス監督)に1位票を入れ、文句なしの受賞だった。2位にアストロズのヒンチ監督を選び、3位にヤンキースの新任ブーン監督を選んだ。投票の結果、2位はレッドソックスのコーラ監督だった。3人の候補に同監督を入れなかったことで、レ軍の地元メディアから非難を浴びた。LinkedIn(リンクトイン)というビジネス系のSNSアカウントを調べられ、ボストンCBS、ボストンNBCの記事でフルネームとともに「不可解な投票」として報道された。

米国人の友人たちから、携帯にメッセージが届いた。「どうしたんだ? 名前載っているぞ」。すぐに青ざめたことを覚えている。コーラ監督は翌年オフ、アストロズのベンチコーチ時代に電子機器を利用したサイン盗みに関わったとして解雇された(今季からレ軍監督に復帰)。知人から「君は(監督賞を選ぶ時に)それを分かっていたのか! さすがだな」と褒められたが、そんなわけもなく…。知っていれば、19年のMVPにブレグマンを選ばなかっただろうし…。

さておき、BBWAAの各賞投票には重大な責任が伴うということだ。おそらく、30人の記者が今年のア・リーグMVPに大谷を選ぶことに迷いはさほどなかったと想像する。満票という文句なしのMVP。それだけの価値があるシーズンだった。【MLB担当 斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)