今季はエンゼルス大谷翔平投手(27)の輝きとともに、ベーブ・ルースも日米で脚光を浴び、再評価されました。ルースの時代から大リーグの偉大な強打者を挙げるなら、タイ・カッブ、ルー・ゲーリッグ、テッド・ウィリアムズ、スタン・ミュージアル、レジー・ジャクソン、ケン・グリフィー・ジュニア、バリー・ボンズの名前は外せないでしょう。ルースを含めて彼らに共通するのは、「左打者」ということです。

しかし、最近はア・リーグで異変が起きています。豪快なホームランでファンを魅了する左のスラッガーが、少なくなっています。2010年以降、同リーグで本塁打王に輝いた左打者は、13、15年クリス・デービス(オリオールズ)の1人だけです。

さらに、MVP(最優秀選手)の受賞者を見れば一目瞭然です。2011年以降、ア・リーグから左打者は1人も選出されていません。それどころか、全米野球記者協会による投票結果を見ると、左打者は17年が得票のあった野手22人中でホズマー(ロイヤルズ)、グレゴリアス(ヤンキース)の2人だけ。18年は野手18人でグレゴリアス1人のみ。19年は野手21人中で4人に増えましたが、ディバース(レッドソックス)の12位が最高順位。昨年も野手18人中で3人だけでした。

そんな左打者不利? の傾向にあるア・リーグMVPレースで、今季は大谷が最有力候補に挙がっています。

素晴らしい活躍を見せた理由の1つに、好転した左腕との対戦成績があります。昨年までは左投手に苦しみ、スタメンを外されたこともありました。しかし、今季46本塁打のうち、左投手から18本塁打をマーク。メジャー全体で右打者を含めても、マット・オルソン(アスレチックス)に次ぐ2位タイです。

さらに長打率は対右投手の5割6分6厘に対し、メジャー6位の6割3分6厘をマーク。OPSも対右投手の・954を上回り、メジャー8位の・980。左打者ではともにメジャーNO・1の実績でした。

他にも、メジャートップタイの8三塁打のうち、左投手から5本を放ちました。左投手から計33長打もメジャートップです。左打者にもかかわらず、右打者をしのぐ「左腕キラー」ぶりを発揮しました。MVP級の働きは、左腕を克服した結果と言えるでしょう。

一方のナ・リーグにはMVPの有力候補で、メジャー最高のOPS1・044を誇るブライス・ハーパー(フィリーズ)、同OPS・999のホアン・ソト(ナショナルズ)の両外野手がいます。いずれも大リーグを代表する左打者。ソトは7月のホームランダービー1回戦で「第1シード」大谷を撃破する番狂わせを演じ、日本でも一躍名をあげました。したがって、大谷がメジャーNO・1とは言い切れませんが、ア・リーグ最強の左打者として疑う余地はないでしょう。【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)