第7戦までもつれた末、アストロズの優勝となった今年のワールドシリーズは様々なストーリーを生むこととなった。まずアストロズは球団結成56年目にして初の制覇である。特に2011年から3年連続で100敗以上というどん底を味わっているから今回の美酒はこの上ないものだろう。

 さらに地元ヒューストンにとって大きな意味を持つのは、アストロズの選手がユニフォームの左胸にチームのマークとテキサス州のシルエット、さらに「ストロング」という言葉が入ったパッチを付けてプレーしたことだ。これは8月に襲ったハリケーン・ハービーによって甚大な被害を受けたヒューストンの復興を願い、強くあるという合言葉「ヒューストン・ストロング」を現したもの。今回の優勝は地元の人々を強く励ますものになったに違いない。

 そんなアストロズにあって今回、最も輝いたのがMVPを受賞したジョージ・スプリンガー外野手である。スプリンガーは今回のシリーズで5本の本塁打を放ち、ミスター・オクトーバーと呼ばれたレジー・ジャクソン元外野手の持つシリーズ記録に並んだだけでなく、ここぞという時に鋭いヒットを打ちクラッチヒッターとしての資質を存分に発揮した。まさに受賞に値する活躍だったといえるだろう。

 スプリンガーと今回の優勝について興味深いエピソードがある。スプリンガーはアストロズが不調の真っ只中にあった2011年のドラフトで1巡全体11位で指名され、契約に至った。その後マイナーで育成され、14年にメジャーデビューを果たし、その5月には7試合で7本の本塁打を放つ活躍を見せたのである。これに注目したのが老舗スポーツ誌スポーツイラストレイテッドだった。掲載されると名誉といわれる表紙にスプリンガーの写真を大きく載せた上で、2017年のワールドシリーズ・チャンピオンとうたっていたのである。スプリンガーの実力とチームの再建策の着実さを評価したものだった。そしてその”予言”が現実になったのである。

 この記事を書いた記者の慧眼は恐るべきものだが、こんな事が本当に起こる不思議さを感じずにはいられない。この試合でダルビッシュ有投手の5失点がドジャーズの敗因となったのは残念だったが、やはりワールドシリーズは特別と思わされるものとなった。