気迫あふれる14球の力投は実らなかった。ドジャース前田健太投手(31)が、同点の8回から3番手で登板し、右打者3人を3者連続空振り三振に仕留めた。

エース左腕カーショーが連続本塁打を浴びて同点とされた直後、ナ軍打線の勢いを食い止めた。三振を奪う度にこん身のガッツポーズでほえ、チームを鼓舞したが、延長戦の末に完敗。ワールドシリーズ制覇を目指した19年シーズンは地区シリーズ敗退で終わった。

試合後、前田の表情は毅然(きぜん)としていた。だが、歯がゆさは拭い切れなかった。今の気持ちを問われ「悔しいですね」と即答。その後5度、同じ言葉を口にした。「チームスポーツなので自分(の結果)が良くても、チームが負けるというのは選手にとって一番悔しいこと」。重くのしかかる完敗の現実を、冷静に受け止めた。

約1カ月前、先発から中継ぎへ配置転換されながら、黙々と仕事を果たしてきた。プレーオフでは4試合の登板でいずれも無失点。「自分のできる精いっぱいのピッチングができた。出せる力は出せたかなと思います」と全力を尽くした。この日、三振を奪った球種は全てスライダーで「ここ2年は完璧じゃなかったけど、いい時に戻せた感じはある」。直球も今季最速の約154キロをマーク。実力をいかんなく発揮した。

登板前は、押し寄せる重圧との戦いだった。「吐きそうにはならないですけど、胃とか(体の)中にあるものが、キュッとされるような感覚になる」。マウンドでは一転、打者を圧倒した。毎試合前、投手陣の誰よりも早くグラウンドで調整を開始。シーズン終盤、消化試合で得点差が開いた場面でも、プレーオフの緊迫感をイメージして奮い立たせてきた。「プレッシャーがかかればかかるほど、力が出るタイプなのかもしれない」と謙遜気味に笑ったが、継続的な準備があってこその結果だった。

メジャー4年目もワールドシリーズ制覇には届かなかった。互いが勝ち進めば、田中将大投手(30)の所属するヤンキースと対戦する可能性もあった。「残念といえば残念ですけど、メジャーリーグにいれば、いつかチャンスはあると思うので。ワールドチャンピオンを次こそ勝ち取れるように、努力していきたい」。頂点をつかむまで、何度でも立ち上がる。【斎藤庸裕】