メッツなどで通算311勝を挙げ92年に殿堂入りしたトム・シーバー氏が8月31日に75歳で死去した。米野球殿堂によると、死因は認知症と新型コロナウイルス感染に伴う合併症だったという。

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巨人のV9選手、高田繁氏(75)の脳裏には、シーバー氏の直球が焼き付いている。74年11月4日の日米野球で巨人の1番打者として対戦。2回に左翼席へ3ランを放ったが「完全にまぐれだよ」と笑った。がっしりとした体から投じられる、浮き上がってくるような直球。「手元で動くんじゃなくて、今で言うフォーシームだね。グーンと伸びてくる。速くて力があって、キレがあって。コントロールも両サイドにビシビシだよ。『振るな』と言われても振らされる。1、2の3で振らんと、とても当たらなかった」と懐かしんだ。

そんなボールと同じくらい強烈な印象を与えたのは、ダンベルを使ってのトレーニング姿だった。右手に持って、肩肘を鍛えていた。「当時の(日本の)ピッチャーは投げる手で箸より重いものは持つな、と言われていた時代。かばんも逆の手で持ってね。冷えるから水泳もダメ。それくらい肩肘を大事にしていたのに、鉄アレイだよ。初めてそんなピッチャーを見て『へえ-、右手でトレーニングするんだ』って思ったのを覚えてるよ」。

ボールも練習も、今でも鮮明に記憶に残る。何度も「本当にすごいピッチャーだった」と繰り返し、名投手をしのんだ。