ア・リーグ第5シードのヤンキースが9回試合ではレギュラーシーズンを含め史上最長となる4時間50分の大熱戦を制し、第4シードのインディアンスに連勝しワイルドカードシリーズを突破した。

雨もあり両軍合計でポストシーズン(PS)最多タイの19四球の乱戦。5日(同6日)からの地区シリーズでは宿敵レイズと対戦する。今PS初先発の田中将大投手(31)は、5回途中5安打6失点で勝敗はつかなかった。

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悪コンディションを考慮すれば、今試合での田中はよく投げていた。精神的な強さがなければ、持ちこたえられなかったと思う。

雨が降っていないのに、試合開始は1時間弱も遅れ、1回裏に田中がマウンドに上がるとどしゃ降りに近い雨になった。「俺の時だけ、なんなんだよ」と文句のひとつも言いたくなる。しかもクリーブランドの球場は、ただでさえ寒い。ユニホームがあおられていたように風も強く、体感での寒さは見た目以上になる。風向きも“ホームラン風”だった。

個人的に雨が一番嫌だった。スプリットやフォークなど、落ちる系の変化球は、持っているボールを強くグリップして投げるため、ぬれてしまうとすっぽ抜けてしまう。田中がどうなのかは聞いていないが、プラスには働かないだろう。

1回1死二塁、2ストライクに追い込んでいながら、スプリットがど真ん中に抜けて右翼線へタイムリーを打たれた。説明する必要もないと思うが、圧倒的に投手が有利なカウント。田中もワンバウンドでもいいからボールゾーンを狙ったと思う。細心の注意を払うなら、滑って抜けることを計算し、スプリットでもホームベース上に投げてはいけなかった。追い込むまではスライダーを続けてボールゾーンで空振りを取っていただけに、コントロールできていた同じ球種でもよかった。

再開後も不運は続いた。中断時間は33分。これが微妙な時間だった。球数を投げていれば降板だが、12球で中断。この球数だと、どれだけ中断の時間が長くても降板にはならない。時間が短ければ肩を作り直す必要はないが、約30分ぐらいの中断は微妙。ベンチ前でキャッチボールしてマウンドに上がったようだが、しっかり肩を作り直す時間もない。攻撃が長くなるケースもあるが、得点が入って待つのは、それほど気にならないもの。投手にとっては中途半端で嫌な時間になってしまった。

私はメジャー時代、このような登板はなかったが、リリーフをしていた時に再開後に投げる準備をするように指示されたことがあった。2時間ぐらいで再開するだろうと言われていたが、することがなくロッカールームの床に1時間ぐらい寝て、冷えた体を温めるために風呂に入って投げたのを覚えている。いずれにせよ、天候との闘いは投手にとってマイナスになる。

4点目の適時打も、遊撃手のほぼ正面に飛んだが、雨でスリップしてイレギュラー。強い当たりだっただけに、投手は割り切って投げられるが、これも不運だったと思う。

ヤンキースは強力打線で、4点ぐらいなら我慢できる。2回以降は立ち直ったが、4回が終わった時点で球数は70。この球数も微妙だった。中断で肩を作り直していればこの回まででよかったが、勝ち投手の権利がかかるイニング。もう1イニングの計算で続投したのだろうが、悪コンディションで精神的な疲労が大きかったのだろう。5回には先頭打者に二塁打を打たれて、次打者に四球を与えて77球で降板した。

ただ、強力なインディアンスの投手陣も崩れたように、投手にとって過酷な状況で、田中の粘りは印象に残った。投球そのものも、変化球を低めに、直球は高めのボールゾーンに丁寧に投げていた。面白みに欠けるかもしれないが、勝つためには必要な“粘り”。田中の最大の武器が生きて、チームの勝利につながった。(日刊スポーツ評論家)