開幕投手を任されることが濃厚となったパドレスのダルビッシュ有投手(34)は、メジャー2年目のレンジャーズ時代、シーズン初登板で9回2死まで完全試合の快投を演じている。13年4月2日(日本時間3日)アストロズ戦。猛者たちを相手にした力投を、当時の紙面で振り返ります。(所属、年齢など当時)

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大記録まであと1人だった。レンジャーズのダルビッシュ有投手(26)が今季初登板のアストロズ戦で、完全試合達成を続けていた9回2死から安打を許し、日本投手初の快挙を逃した。8回2/3を投げて1安打無失点、自己最多の14奪三振で初勝利を挙げた。惜しくも偉業は逃したが、111球の熱投で、昨季から続くチームの連敗を5で止めた。

「あと一人て…。なんでやねん!!」試合終了から約1時間後。ダルビッシュがツイッターで本音をつぶやいた。更新後数時間でリツイートは3万件を超え、あと1人で完全試合の快投に称賛の輪が広がった。

9回2死。27人目の打者M・ゴンザレスの痛烈な打球が、ダルビッシュの脚の間を抜けてセンター前に転がった。111球目の外角高めの速球。大記録達成を期待する総立ちのスタンドから、一斉にため息が漏れた。ダルビッシュは苦笑いを浮かべて、降板した。

「僕よりも、チームメートが悲しそうというか(笑い)。僕は完全試合をしてもチームが3勝、5勝になるわけではないので、何も思っていない」と言った。悔いは残るか聞かれても、「あそこまで投げたら十分じゃないですか」と、個人記録に関心を示さないダルビッシュらしい言葉が続いた。立ち上がりは決して万全ではなかった。首の張りはあったものの、投球自体は順調だったオープン戦の続きで臨んだが、いざマウンドに上がると力が入った。「体の動きが最初はバラバラだった」と言う。それでも150キロ前後のカットボールでストライクを先行させ、「回を重ねて落ち着いてきた」と振り返った。中盤を過ぎると、アウトごとにどよめきが起こる。メジャー自己最多の14個の三振を奪うたびに、地鳴りのような「ユー!」の声が響いた。コンパクトな腕の振りが、打者の目をあざむいた。アストロズの主砲ペーニャは「あの投げ方だと、速くても92マイル(約148キロ)くらいかと思ったら、97マイル(約156キロ)の速球が飛び込んでくる。92マイルを計測する球でも、打席ではそれ以上に速く見えた」と舌を巻いた。

昨季後半から取り組んできた新フォームが功を奏した。セットポジションで構えた時から右ヒザを曲げることで、無駄な動きを省いた。左足を上げた時に生じるエネルギーを、コンパクトな腕の振りで一気に解き放つためだ。同時に意識改革も行った。先のことを考えず、「ただストライクをどんどん取っていこう」と、目の前の1球に集中することを心掛けている。

歴史的快挙には1歩及ばなかった。ワシントン監督は、ベンチに戻ったダルビッシュを優しく抱擁した。「あんな投球を見て何でがっかりするんだ」と笑顔でねぎらった。ダルビッシュも「あそこまでいったらアウトを取りたいですよね。まだ完全試合を達成している投手に1歩足りない。でもいい思い出になった」と本音を漏らした。「2年目のジンクス」という言葉すら忘れさせる内容だった。(2013年4月4日付日刊スポーツ紙面より)