投手だからこそ、打者大谷は死球にも怒りを覚えない。エンゼルス大谷翔平投手(27)が16日(日本時間17日)、ホワイトソックス戦に「3番DH」で出場。第5打席で受けた死球が、故意死球と判定され、退場者が出る騒動に発展した。それでも笑顔で一塁へ向かった大谷のおかげか、大乱闘には至らずじまい。4打数2安打で5試合ノーアーチに終わったものの、まれに見る“好感度抜群”の死球となった。

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痛いはずの右足を引きずることもなく、大谷は平然と一塁へ向かった。6点リードの9回2死走者なし。ほぼ勝敗が決した状況で内角へ厳しい球を避けた後、カウント2-1から右ふくらはぎへ死球を受けた。審判団が故意死球と判断し、ライトは一発退場。抗議を続けたホ軍ラルーサ監督も退場処分となり、敵地は一時騒然となった。

それでも大谷は意に介することなく、笑みを浮かべていた。一塁手シーツと屈託なく談笑。シーツの肩をもむなど故意死球の直後とは思えないほど穏やかな表情で、塁上に立っていた。

2日前の14日、ホ軍の主砲アブレイユら3選手がエ軍投手陣から死球を受けていた。伏線を察知していたからこそ、審判団は直後に協議。試合後のマドン監督も故意であるとの認識を示したうえで「我々は分かっていたよ」と淡々。恨み節を残すことはなかった。

裏を返せば、メジャーの“暗黙のルール”を両軍が理解していたからこそ、遺恨を残すこともなかった。報復死球は認められるものではなく、頭部への危険球などは論外。ただ、その許容範囲は周囲ではなく当事者同士が肌感覚で定めてきたと言っていい。大谷が激高していれば乱闘に発展したに違いないが、投手心理も理解できる「二刀流」だけに、少し“遠慮気味な報復”を感じ取っていた可能性は高い。

たとえ不慮であっても、投手大谷が死球をぶつけることはある。だからこそ打者大谷は死球に怒りの感情を表すことなく、翔平スマイルで空気をほぐしてきた。5試合連続ノーアーチで故意死球を受けても、大谷はずっと笑顔のままだった。【四竈衛】

○…日本で死球による退場は、頭部へ当てた危険球がほとんど。他に、両軍に警告試合が宣告された後にぶつけた投手が退場となったケースはあるが、故意死球で退場は見当たらない。