アリゾナで5日間を見届けた限り、藤浪晋太郎は早くもアスレチックス同僚と打ち解け始めている。同世代が多いチーム事情にも恵まれ、何より「人見知りせず1歩を踏み出す勇気」が功を奏しているのだろう。「晋太郎が積極的に話そうとするから、相手も話そうとしてくれるのだと思います」。通訳兼パーソナルトレーナーの鎌田一生氏は現状をそう分析する。

幼少期に英会話を習っていた。中学3年時に英検準2級を取得した。入団会見での流ちょうな英語スピーチから過去の経歴にも注目が集まっているが、そもそもしゃべろうとしなければ何も始まらない。キャンプ初日には早速キャッチボール相手のターノクに「curve nasty!(カーブ、エグいな)」と声をかけ、握り方を聞き出す場面もあった。鎌田氏いわく、今は「お互いがお互いを知りたがっている状態」だそうだ。

マッサージセラピストとして同行する木下喜雄氏も、右腕の距離の縮め方に驚きを隠せない。「もうみんなから『FUJI、FUJI』と声をかけられている。本当にコミュニケーションが上手ですよね」。藤浪が仲間から「グッドモーニングは日本語でなんて言うんだ? ハウアーユーは?」と質問される度、ホオが緩むそうだ。当の本人は「簡単な聞き取りはできても、まだ返すボキャブラリーが…」と悔しがるが、はた目には順調にチームに溶け込んでいるようにしか映らない。

鎌田氏に聞いたところ、日本人スタッフ2人には心掛けているポイントがあるらしい。「晋太郎がチームメートと話をしている時は、少し理解に苦しんでいて自分が入った方がスムーズな時でも、できるだけ手伝わないようにしています。つまずきながらでも、その方がチームに早くなじめると思うので。実際どんどん上手になっているし、近い将来、必ず普通にしゃべれるようになるでしょうね」。「チームFUJI」の支えもあって、藤浪と仲間の絆は日に日に深まっている。

鎌田氏は米国の大学を卒業後、インディアンス(現ガーディアンズ)のマイナーチームでトレーナーを経験。帰国後は日本ハム、阪神、オリックスで計12年間トレーナー職に就いた。13年から5年間在籍した阪神では藤浪と同期入団でもある。一方の木下氏は日本ハムで7年間トレーナーを務め、ダルビッシュ有や大谷翔平もチェック。16年からの7年間は阪神に在籍し、不調時の藤浪も知る。性格や体を熟知した2人のサポートは、異国の地で頼もしい限りだ。

40歳の2人はともに単身赴任。鎌田氏には愛妻と1女1男、木下氏には愛妻と3男がいる。鎌田氏の場合、愛妻の後押しもあって藤浪に連絡を入れた結果タッグ結成につながったそうで「きっかけをくれた家族には本当に感謝しかないです」。木下氏も「寂しくないと言えばウソになりますが、家族は分かってくれているので」と穏やかに笑う。覚悟を決めて太平洋を渡った2人のサポートなくして、メジャーリーガーFUJIの成功は想像しづらい。【佐井陽介】