<ブルージェイズ6-5オリオールズ>◇26日(日本時間27日)◇ロジャーズセンター

 ロジャーズセンターが「川崎劇場」に変わった。ブルージェイズ川崎宗則内野手(31)が逆転サヨナラ二塁打を放ち、雄たけびを上げた。「9番遊撃」で出場し、1点を追う9回2死一、三塁で「ガチガチ」だったが、左中間へ会心の一撃。通訳のいない試合後のインタビューではマイクを奪い取り「アイム

 ジャパニ~~ズ!」などと叫び、観客から歓声を受けた。マイナー契約で合意し渡米した3月はWBC期間中でもあり注目度は低かったが、明るさとひたむきさで輝きは増すばかりだ。

 1点を追う9回裏2死一、三塁だった。川崎は打席で足が震えていた。ソフトバンク時代の恩師立花コーチの「オマエのバッティングの時間。好きなように使ったらいい」との言葉を思い出す。落ち着きを取り戻し、ジョンソンの153キロ直球をはじき返す。鋭いライナーが左中間を抜けた。逆転サヨナラ二塁打に、二塁を回りながらヘルメットを高々と放り投げた。

 チームメートと歓喜の抱擁を終えると本当の“川崎劇場”が開演する。通訳はいない。三塁側ベンチ前でのインタビューでは、マイクを奪い取る。「サンキューベリーマッチ。アイム・ムネノリ・カワサキ。アイム・フロム・ジャパン!

 アイム・ジャパニ~~ズ!」とまくし立てた。さらに手元の英会話ブックを開き「チームメートが私に機会を与えた。私はそれを何とかしたかった」と叫んだ。

 観客席は笑いと歓声に包まれる。直後、チームメートから襲われ顔にはシェービングクリーム、頭からはスポーツ飲料。ロッカールームでは記者に囲まれ、手放せない英会話ブックを手に開口一番「やりました。抱きしめてください(ハグ・ミー)」と笑わせる。立花コーチの言葉を思い出した打席を「ガチガチなんですけど、いつも通りのガチガチでいけた」と、ムネリン節は止まらなかった。

 つかみ取った存在感だった。移籍先が決まらない時期も夫人と英会話教室に通い、その時を待った。マイナー契約に合意した3月、WBC期間中でもあり成田空港から出国する際に集まった報道陣は4人。昨季所属したマリナーズのバットケースを携えていても、存在に気付く人はほとんどいなかった。それでも「いい写真、のっけてください」と両手を広げてポーズを取るサービス精神は健在だった。

 絶対的な正遊撃手レイエスの故障リタイアがあったとはいえ、遊撃手として起用され続けている点は見逃せない。マイナーからはい上がり、チームメートやファンから認められ、愛されるまでになった。ギボンズ監督も「レイエスが離脱したとき、正直川崎についてはほとんど知らなかった。だが本当に素晴らしい働きをしてくれている」と予想外の活躍を認めるしかなかった。すべてを自分のペースに巻き込む。川崎の舞台が整った。

 ▼ブルージェイズ川崎が大リーグ移籍後初のサヨナラ安打を逆転の場面で放った。日本人選手の逆転サヨナラ打は09年9月18日にイチロー(マリナーズ)がヤンキース戦で2点本塁打を打って以来、史上4人目。川崎はソフトバンク時代にサヨナラ安打を8度マークしているが、逆転サヨナラ打は日米を通じて初めて。