浪花節あふれる伏兵が、難敵左腕を沈めた。日本ハム石川慎吾外野手(22)が西武10回戦で、豪快弾で4連勝中と好調だった菊池を仕留めた。0-0の7回2死からバックスクリーン右へ、決勝の2号ソロ。打撃不振の大谷らを外して組み替えた打線で、今季2試合目のスタメンに抜てき。菊池から3安打のうち2安打を放つなど孤軍奮闘で、連敗ストップに貢献した。大阪生まれの高卒4年目。若きホープが、低迷気配のチームに再逆襲の機運を運んだ。

 たくましいハートを命綱にした。スーパーサブの石川慎が、男を上げた。7回2死。メンドーサと菊池が、譲らない0-0の投手戦を展開。一振りで均衡をぶち破り、ヒーローになった。1-1からの3球目。甘く入ったカーブを拾い、フルスイングで白球を乗せた。バックスクリーン右へ特大ソロ。決勝点をたたき出した。今季2試合目のスタメン起用で、大仕事をした。「ラッキーボーイになるんだ、という気持ちでいた」。一戦にかける決意を、有言実行した。

 若くして、男らしさあふれる22歳。涙腺は決壊寸前だった。今季は開幕1軍も、直後の3月30日に2軍降格。奮起してイースタン・リーグで10本塁打と量産しても、1軍での再チャンスまで長かった。岡、浅間ら外野手は、ニューフェースの若手が台頭。心が折れかけた時、我に返った。「いいや、と投げ出さずにシンゴらしくやっていこう」。田中2軍監督ら首脳陣から、支えられた。再昇格したのは12日。「掛けてもらった、いろいろな言葉は鮮明に覚えている。思い出したら、涙が出そうになった」。力強く何度もガッツポーズしたが、心は泣いていた。

 乗り越えた悲しみで、また強くなれた。昨年11月。選手会納会で、大粒の涙をこぼした。後輩が、先輩へお酌をして回るのが慣例。オリックスへFA移籍した小谷野が出席していた。同じ右打者。入団時から目をかけてもらっていた先輩だった。「身近な目標でしたし、とにかく一緒のチームでなくなることが寂しくて」。つらい現実を受け入れられず、ジリジリと迎えた宴もたけなわ。奮い立たせ、やっと杯を合わせた瞬間だった。号泣して、崩れ落ちた。

 誓った思いがある。同じグラウンドで、今度はライバルとしてプレーすること。今3連戦初戦は代打で今季1号を放ち、この日も猛アピール。菊池からチーム3安打。中島の内野安打を除き、5回の二塁打を合わせて2安打を重ねた。栗山監督は「ちゃんとヒットを打ったのはシンゴだけ」と最敬礼する働きだった。打撃不振の大谷を外すなど組み替えた打線の代役から、主役をさらった。明日30日からの次カードはオリックス相手だったがこの日、小谷野が骨折。願いはかなわなかったが、浪花節を地でいく生きざまを、ここ一番で発揮した。石川慎の執念の躍動で、再反攻の芽ができた。【高山通史】