オリックスから阪神にFA移籍した西勇輝投手(28)の入団会見が14日に大阪市内で行われました。虎党の期待を背負う通算74勝右腕を取材してきた歴代担当記者がその素顔を披露します。

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プロ未勝利のころの西には少々シャイで寂しがりの印象を受けた。寮では同期入団の甲斐拓哉の部屋に入り浸り、2人で音楽を聴いたりDVDを見たり。1人で外食や買い物するのが苦手で、1学年下の山田修義を連れて好物の焼き肉を食べに行っていた。趣味の1つが意外にもタオル集め。「触り心地が良くて水分をよく吸うヤツがいいんです」とニコっとして話す。かわいげのある人間だなと思った。

プロ3年目の11年4月、初勝利を挙げた西のグラブに「幸」と刺しゅうがあった。開幕前に高校1年から飼っていた愛犬キララがイノシシよけの餌を食べて急死。ひたすら泣いたという。「へこんでいられない」と三重の実家近くの神社からもらったその文字を刻み、悲しみを幸せに変えようと腕を振っていた。当時の背番号は63。21歳になるこのシーズン、年俸1300万円(金額は推定)でいきなり10勝した。

とんとん拍子で成長する裏で顔面神経まひでトレードマークの笑顔が消えたことも。「お母さん、口がおかしい、首の後ろも痛いし、よだれも出るし、目もつむらん」。母美香さんから後に聞いた電話でのやりとりに驚いた。自身もチームも勝てない時期は21歳なりに悩み苦しんだ。繊細だった。病院に通い、あるコーチから「自分、年俸いくらもらっているの。もう年俸分の働きしたやん。そんなプレッシャーは感じなくていい」と言われ、心と体が解放された。そんな陰があるから、たくましく積み上げた74勝が光って見える。

プロ入り前、西の部屋には家族が「上り調子でいくように」と願いを込めたコイのぼりが一年中飾ってあった。親戚一同からは「幸せ大漁 西勇輝 輝く君が見たい」と宝船の絵が入った大漁旗で送り出された。一投手のキャリアとしては右肩上がりだろう。ただ「大漁」を優勝やAクラスに置き換えるのなら、まだ大きな幸せをつかんでいない。新天地、輝く君を見たい人はきっと多くいる。【10、11年オリックス担当=押谷謙爾】(おわり)