「ハジコイ」に「ツジコイ」だ。西武辻監督が23日、埼玉・上尾高で講演会を行った。高校生約1000人に「人生に無駄はない」というテーマで、自らの野球人生を振り返った。

中盤、高校生たちがざわついた。影響を受けた監督の話題から、指導者の理想について「深田恭子みたいな先生なら良いよね。たまたま昨日ドラマを見てたんだけど、悪いヤツにも耳を傾けるじゃない。あの教え方。耳を傾けて、目を傾ける。それが一番」とまさかの名前を口にした。

流行をキャッチする指揮官ならではの例えだった。TBS系のドラマ「初めて恋をした日に読む話」(通称ハジコイ)は人気急上昇中。女優の深田恭子演じる東大受験に失敗した予備校教師が、落ちこぼれ高校生を東大入学させるべく奮闘する。第2話では自身の失敗経験を元に志望学部の助言を行い「私、今、あの子に夢中なの」と寄り添う姿が話題となった。

ドラマはデフォルメされているが、辻監督自身の経験とも合致する。現役時代、入団4年目に人さし指を骨折。「あれがなければもっと活躍できたとか、もっと金を稼げたとか、つらいことが引き出しに入って、パワーになっている」と説明。少しの後悔があるからこそ、深田恭子の指導のようなモチベーションにつながっていた。

能力を伸ばすための信念は変わらない。「選手に笑顔でやってもらいたいと思ってる」と常に表情を気にかける。ミスは「終わったこと」ととらえて執拗(しつよう)には言わない。繊細な感情の機微をとらえて「傷口にツンツンと刺激を与える」とモチベーションを上げさせる。成功体験は昨年9月24日の楽天戦。山川、浅村、中村の3人が失策後に、3本塁打を放った。「取り返そうと、打席で力を発揮してくれた」と振り返る。

どんな時も耳を傾け、目を向ける。選手を見て、最高の結果へと導く。「人はどこでチャンスをつかむか分からない。誰と巡り合うかという可能性も。全ての行動には意志がある。失敗したことは過去。前向きになって、挑戦してくれれば。」と語りかけた。ファンをドキドキさせるドラマチックな1年がまた始まる。【島根純】