悲劇のマウンドで“リベンジ”を果たした。巨人ドラフト1位左腕の高橋優貴投手(22)がヤクルト打線を5回5安打無失点に抑え、無傷のプロ2勝目を挙げた。2回にはプロ初安打初打点となる三塁適時内野安打も記録した。東海大菅生3年夏の西東京大会決勝でサヨナラ適時打を許し、憧れの甲子園を逃した日から1731日ぶりの神宮球場で輝きを放った。チームは5連勝で2位ヤクルトに2・5差とした。

  ◇    ◇    ◇

2回1死二、三塁。高橋が左打席に立った。ベンチでは両拳を縦に重ねた原監督が「打て!」のポーズ。ブキャナンの内角144キロに「何とか当たってくれ!」と念じて打った打球は、三塁前に高く跳ねる適時内野安打になった。高校時代は9番が定位置。大学も指名打者制で打席にはほぼ立ったことがない。「ヒットは高校3年の時に神宮で打ったぶりです」。プロ初安打初打点が貴重な先制点となった。

最速146キロの直球と同じ軌道で沈むスクリューを駆使した。5回1死一、二塁からバレンティンを空振り三振。続く雄平も三邪飛で5回無失点。毎回得点圏に走者を置いたが「炭谷さんの要求通りに投げられた部分があったので抑えられました」と振り返った。

14年7月、このマウンドで悪夢を見た。高3夏の西東京大会決勝。背番号11の2番手左腕はサヨナラ打を浴びた。夢舞台を逃し、目標を見失った。夏休みの1カ月は寮から茨城の実家に戻ったが、ボールを1度も触らなかった。大好きな甲子園のテレビ中継も見なかった。気晴らしに遊び歩き、夜遅く帰宅し母親に叱られた。過ぎる時間の中で自問自答を繰り返した。

ただ、結論は心の中で決まっていたのかもしれない。寮に戻ると自然と白球を手にしていた。八戸学院大で神宮を目指し、1度もたどり着けなかったが「今日ひとつ勝てたことで、いい思いができました」。だからこそ「本当にプロを目指せる位置になったのは高校野球。特にその神宮での試合が一番です」と胸を張って言えた。「先輩方がたくさん打ってくださったので、よく投げられました」。苦い記憶をプロの舞台で上書きできた。【桑原幹久】