プロ野球なんて想像もできなかった少年が、引退セレモニーの日を迎えた。元ロッテ投手の内竜也氏(35)が24日、ロッテ対ソフトバンク(ZOZOマリン)の試合前に始球式を行い、あいさつした。

泣きそうだった。「本当にこれで終わりなんだな、終わったんだなって、感極まって。もうマリンで投げることはないんだなって。未練はないですよ。ただもう、大観衆の前で投げることはできないんだなって」。潤みを何とか引っ込めて、笑って最後のリリーフカーに乗り込んだ。

吐きそうな気持ちも、いつもリリーフカーに乗れば「よし、やるぞ」に変わった。登場曲は「The Final Countdown」。スタンドからの「うーち!うーち!」に背中を押された。9度の手術にも負けず、通算308試合に登板。ZOZOマリンに舞い戻るたびに、変わらぬ劇空間があった。

谷保恵美さんのアナウンスが響く。「マリーンズのピッチャー、内竜也~、背番号21~」。両チームの選手、首脳陣がベンチ前に並ぶ。同い年で仲良しの荻野貴司外野手(35)がミットを構えた。リリーフで支え合った益田直也投手(31)が打席に入る。2人がいつものように笑っていて、涙も完全に引っ込んだ。現役時代さながらに右腕を突き上げ、セットポジションに。127キロの直球を投げた。始球式が決まってから「スライダーを!」と決め球を願う声も聞こえた。引退セレモニーを開いてもらえたまっすぐな感謝を、直球に込めた。

投げ終えて、先発投手のためにマウンドを少しならした。マイクへ向かう。

投げることよりもずっと緊張した。人前で話すのはあまり得意ではない。高校時代もほほ笑みを浮かべながら、ふわふわとした言葉が多かった。時に部室でゲームをし、仲間とじゃれ合うこともあった球児は、17年間をプロ野球で過ごし、背筋のしゃんと伸びた大人になった。

「本日はシーズン中にもかかわらず、このような場を用意していただいた千葉ロッテマリーンズ、そしてスーツのSADAさん、本当にありがとうございます。17年間、千葉ロッテマリーンズに在籍して、本当に良かったと思います。ファンの皆さん、たくさんの応援、ありがとうございました。たくさんケガをしたんですけど、2010年には日本一になることもでき、本当に幸せな野球人生でした。本当に、本当にありがとうございました」

ドラフト1位で指名された03年秋、記者会見でバレンタイン監督へのメッセージを問われ「サンキュー、バレンタイン!」と笑って始まったプロ野球生活。引退あいさつの最後は「千葉ロッテマリーンズ、大好き!」で締めた。

「ただ真面目に終わるよりは、僕らしく、クスクス笑ってもらえるくらいがちょうどいいかな」

尊敬する仲間たち、熱いファンたち、大切な家族。無名の公立校から1人、挑戦したプロ野球の世界。いつの間にか増えた愛する存在に囲まれて、卒業した。【金子真仁】