法大ラストバッターの遊ゴロがファーストミットに収まると、一塁側ベンチから東大の選手たちはいっせいに飛び出した。

スタンドのファンも手を突き上げて、喜びを共有した。笑っている選手。泣いている選手。放心したような顔の選手。感情が入り乱れた。大音周平主将(4年=湘南)は「めちゃくちゃうれしくて…。他のことが何も考えられない。フワフワした…。ずっと勝ってなくて、感動しました。あまり言葉では言い表せません」と気持ちを吐き出した。

主将として、昨年までは捕手として、チームを引っ張ってきた。最後の勝利は、自身が入学する前年の17年秋。惜しい試合はあったが、1勝が遠かった。「下級生の時から勝てると思ってやってきたら、最終学年になって、あれよあれよで(今季)最終戦」。心が折れそうになったこともあったという。それでも折れずに来られたのは「やっぱり、みんな試合の後も前を向いていた。切り替えて、課題と相手の研究をして。いつかはあると思って」。そのいつかが、やってきた。

就任2年目、3季目で念願の1勝を手にした井手峻監督(77)は「夢のようです。うれしいです」とニッコリ笑った。10試合で24盗塁はリーグ断トツ。他校と比べ長打がない分、機動力を伸ばした。この日は、足のある阿久津怜央外野手(3年=宇都宮)を、あえてベンチスタート。2回2死から死球をもらうと、迷わず代走で送った。阿久津は次打者の初球で二盗を決め、2球目の右前打で先制ホームを踏んだ。4回の追加点もエンドランでチャンスを広げた結果だった。

敵将の法大・加藤重雄監督(65)は「大変失礼な言い方ですが、我々の世代の東大さんとは違う。6大学で互角と思っています」と率直に言った。伝え聞いた井手監督も「そうですね。私も法政には勝てなかった」と現役時を思い出していた。